スパイニュース解説・2024年10月イスラエル・イラン軍事衝突001:ミサイル攻撃の応酬が突如発生する情勢長期化の様相

スパイニュース解説記事

イランの代理人であるシーア派勢力の無力化を意図するイスラエル(SPY-NE005)

相次ぐイスラエルとの関係正常化による反イスラエル陣営の切り崩し

 スンニ派主導勢力とイスラエルとの関係正常化は、2020年に、米国が仲介してイスラエルとアブラハム合意が成立することで本格化します。スンニ派諸国からアラブ首長国連邦(UAE)バーレーンスーダン及びモロッコが関係正常化したのです。

 アブラハム合意には、残るスンニ派主導勢力の中で、サウジアラビアクウェート及びカタールが参加していません。特に、中東地域の大国サウジアラビアによるイスラエルとの国交正常化が注目されており、米国の仲介努力が続いています。2023年9月には、米国とサウジアラビアとの高官級協議で、イスラエル承認について大枠で合意したとされ、サウジアラビアによる関係正常化は時間の問題かもしれません。

 最後の中東戦争から半世紀を経て、イスラエルと直接戦火を交えたスンニ派主導勢力は、イスラエルとの宥和に向かっています。イスラエルと関係正常化に至っていないのは、残るスンニ派主導勢力の中でクウェートとカタールです。ただ、両国は、イスラエルに直接脅威を及ぼす存在ではありません。

つまり、従来まで反イスラエルの急先鋒を務めた多数派が切り崩されており、イスラエルにとって脅威が軽減されています

シーア派国家イランによるヒズボラを起点としたパレスチナ問題への武力介入

 一方、イランによるシーア派主導勢力は事情が全く異なっています。1970年代に入って、スンニ派主導勢力がイスラエルと外交交渉を始める中、イランはこれに逆行するかのように、イスラム革命を経てイスラエルへの敵対路線へ転換します。

 そして、革命から間もなくしてレバノン内戦に介入し、レバノン南部の地元民兵を支援することで、イスラエルと間接的に対決します。これを皮切りに、イランは、レバノン南部の民兵組織ヒズボラに支援を拡大することで事実上、スンニ派主導勢力に代わる新たな反イスラエル陣営の構築を始めます。

 ヒズボラに続いて、イラクのシーア派民兵組織、イエメンのシーア派武装勢力そしてシリアのアサド政権に次々と接近することで、イランの代理人として機能するよう支援しました。こうしたシーア派勢力の統合によって、俗に言う「シーア派の三日月」を形成し、反イスラエル陣営の勢力拡大に努めています。

 2014年に、イエメンで、イランから支援を受けたフーシー派が首都サヌアを制圧しました。これは、すでに形成されていた「シーア派の三日月」「満月」へと拡大したとも考えられ、イスラエルを取り囲むように、シーア派主導勢力による包囲網が強化されたことを意味します。

 この段階になると、イスラエルにとってはもはや無視できない脅威ともなります。

ハマスとヒズボラの背後で反イスラエルを強めたいイラン

 反イスラエルを共通理念としてきたパレスチナ問題は、スンニ派主導勢力の切り崩しにあって、中東地域の国際関係に対する影響力が低下しています。

 こうした流れに逆行するように、イランは、シーア派勢力を主導して、反イスラエル包囲網を強化しています。つまり、反イスラエルを鮮明にすればするほど、イランにとって、反イスラエル勢力を糾合することが可能となり、結果的にイランを中核とする反イスラエル陣営を拡大できたのです。イランにとっては、イスラエルとの関係正常化という中東宥和の流れは、これに反発する勢力を取り込む絶好のチャンスとも言えます。

 そして、ヒズボラを筆頭とする「シーア派の三日月」、フーシー派及びハマスという自らの「代理人」を動かして、イスラエルへの敵対行動を取らせることになります。長年にわたる代理人の構築という取り組みがいよいよ功を奏しています

イスラエル関係正常化に焦るハマスとイランとの思惑の一致

 ハマスは、スンニ派イスラム原理主義組織でありながらも、半ばイランの代理人となっています。宗派が異なりながらも、実益を考慮してイランと関係を結んでいましたが、近年は、スンニ派主導勢力の切り崩しが続いており、ハマスに対する支援の先細りが懸念となっています。

 ハマスは、シーア派国家のイランからの支援が従前よりも貴重になっており、イランへの依存を強めざるを得ません。つまり、イランの意向無くしてはガザ地区を実効統治し、イスラエルに戦闘を仕掛けることが一層困難となっています。もはやハマスは、他のシーア派勢力の代理人と変わらない水準でイランに追随しており、宗派の違いは問題になりません。

 そして、2023年9月に、米国とサウジアラビアとの間でイスラエル承認について大枠で合意したとの報道がありました。サウジアラビアは、反イスラエルを標榜するスンニ派主導勢力で、盟主と言える存在です。サウジアラビアがイスラエルと国交を樹立すれば、反イスラエルを唱えるスンニ派主導勢力は事実上消滅します。

 これは、イスラエルへの軍事攻撃を続けるハマスにとって、反イスラエルを共通理念とする大きな味方を失うことになります。近年、サウジアラビアは、ハマスと距離を置くようになっており、ハマスは、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化がもはや時間の問題とも考えざるを得ませんでした。

 ハマスのこうした懸念は、勢力拡大を目指すイランの思惑と一致します。

2023年10月におけるハマスのイスラエル攻撃とヒズボラのハマス加勢

 イランは、代理人を動かして反イスラエル勢力を糾合しており、ハマスは、イスラエルに対する軍事活動を改めて見せつけることで、パレスチナ問題が深刻化しているように国際社会に訴える必要に迫られていました。

 イランとハマスの思惑は、こうして一致し、2023年10月に、ハマスによるイスラエル南部への大規模攻撃へつながったとみられています。ハマスは、過去最大とされる戦闘員を動員し、地元住民を襲撃して、一部を誘拐しました。こうした残忍なやり方はあたかも、パレスチナ問題が未だに終わっていないことを国際社会に訴えるかのようでした。

 イスラエルは、ハマスの残忍なやり方に対応するかのように、ガザ地区を空爆するとともに、2014年以来、9年ぶりとなる同地区への陸上侵攻を開始しました。

 ハマスは、残忍なやり方でイスラエルを刺激すれば、激しい報復を招くということは、過去の経験から理解していたはずです。それでもなお敢えて実行した背景には、イスラエルによるガザ地区への空爆や陸上侵攻を発生させ、その中で一般市民が多数犠牲になる構図を作り上げたかったと考えられます。

 実際、ガザ地区の保健当局の発表によれば、同地区では、2023年10月にイスラエルの空爆と地上侵攻が始まって以降、2024年10月時点で4万人以上が死亡したとされます。その多くは、一般市民とみられており、ハマスの目論見は実現しつつあります。

イスラエルによるガザ地区への地上侵攻によって頓挫する中東宥和の動き

 中東諸国をはじめとした国際社会からは、一般市民を犠牲するイスラエルの軍事作戦に対して、批判が相次ぎます。

 こうした動きは、イスラエルとサウジアラビアとの国交正常化交渉に影響を与えます。サウジアラビアは、イスラエルがガザ地区に対する空爆と陸上侵攻を始めると、国交正常化交渉を一時凍結しました。そして、2024年2月には、パレスチナが独立国家として承認されない限り、イスラエルと国交正常化しない旨の声明を発表しました。

 2020年のアブラハム合意以降、中東・北アフリカ諸国とイスラエルとの宥和の動きは加速しており、2024年中にはサウジアラビアとの関係正常化が実現する見通しでした。しかし、サウジアラビアは、パレスチナが独立国家として承認されない限り、イスラエルと国交正常化しないという従前の姿勢に立ち返ってしまいました。

 中東宥和を歓迎するイスラエルにとっては大きな痛手となりました。一方、中東宥和を懸念するハマスにとっては、イスラエルとサウジアラビアの関係悪化を招いてパレスチナ問題の形骸化を防ぐことができました。ハマスの目論見は実現したのです。

2024年4月にシリアのイラン大使館を攻撃したイスラエルの意図

 イスラエルは、ガザ地区に対する軍事作戦によって、中東宥和にどのような影響が生じるかを推し量っていました。そして、2024年2月に、サウジアラビアが関係正常化を認めないと声明発表したことで、中東宥和を一旦諦めました。その上で、サウジアラビアとの関係悪化を差し置いてでも、ハマスをはじめとしたシーア派主導勢力の無力化を決断したと考えられます。

 これを裏付けるように、その2か月後に当たる2024年4月に、イスラエルは、シリアに所在するイラン大使館を空爆し、イラン革命防衛隊幹部らが死傷しました。イスラエルがイランの外交施設を直接攻撃することは、初めてとみられています。

 そもそも外交公館に軍事攻撃を加えることは、強烈な敵意を向けたメッセージにほかならず、国家と国家の間で武力紛争になっても不自然ではありません。イスラエルとしても、シリアのイラン大使館を直接攻撃すれば、軍事衝突を招きかねないと理解していたはずです。それでもなお実行したのは、報復を受ける覚悟を備えていたということです。

 実際、イランは、300発以上のミサイルをイスラエルに向けて発射することで報復しました。これは、イスラエルとイランの初めての軍事衝突とされています。

 これ以降、イスラエルの攻撃目標は、ハマスに加えて、イラン「シーア派の三日月」となりました。

「シーア派の三日月」の無力化による脅威軽減を決意するイスラエル

 イスラエルは、スンニ派主導勢力との宥和政策によって、中東地域における存在感を認めさせ、自国への脅威を軽減するよう努めてきました。これは、ハマス侵攻に伴うガザ地区への軍事作戦によって頓挫を余儀なくされましたが、方針転換することで、引き続き自国への脅威を軽減できるよう取り組むことが可能です。

 それは、ハマスのみならず、イランが形成する「シーア派の三日月」もまとめて無力化することで、シーア派主導の反イスラエル勢力を縮小させてしまうことです。スンニ派主導勢力との中東宥和であろうが、シーア派主導勢力の壊滅であろうが、結果的に、イスラエルへの脅威が軽減されれば、どちらでも構いません。

 これを裏付けるかのように、イスラエルは、2024年9月、イランの代理人であるハマスとヒズボラの指導者を次々と殺害しました。そして、翌10月にはレバノンに対する陸上作戦に着手します。ハマスに続いて、ヒズボラを陸上で攻撃することでミサイル発射能力を削ぎ落とし、イスラエルへの攻撃能力を無力化させるためです。

 ハマスとヒズボラというイランの代理人を直接攻撃することは、イランに対する直接対峙を叩きつけるほど、強いメッセージとなり得ます。実際、イランは、2024年4月に続いて、10月1日にもイスラエルに対し、ミサイル攻撃を直接行いました。

 イスラエルとハマスの紛争は、イスラエルとイランという国家間の紛争という局面を迎えました。パレスチナ問題が、国家間の紛争にまで発展するのは、1973年の第四次中東戦争以来とみられます。

多数派スンニ派諸国と少数派シーア派国家という反イスラエル陣営の分断を図るイスラエル

 イスラエルとイランが直接、軍事攻撃の応酬を交える事態となり、サウジアラビアをはじめとするスンニ派主導勢力は、危機感を強めます。10月11日に、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)及びカタールは、イスラエルのイラン攻撃に際して、自国領空を使用させないことで一致した旨発表しました。

 サウジアラビア及びUAEは近年、イスラエルと宥和的な動きを見せており、イスラエルとの宥和に否定的なカタールとは、対イスラエル政策で逆行していました。しかし、ここに至って、カタールと共同歩調を取り、イスラエルとイランの紛争と距離を取ることにしました。2020年以来の中東宥和の流れは、ここで暗礁に乗り上げたと言えます。

 ただ、イスラエルにとっては、スンニ派主導勢力と敵対関係にならない限り、こうした動きは想定内とみられます。攻撃目標とするのは、あくまでもイランによるシーア派主導勢力であり、この二つの反イスラエル陣営が分断されたままであることが、イスラエルにとって重要なのです。

多数派の反イスラエル陣営と宥和しつつ、少数派の反イスラエル陣営を無力化

 イスラエルは、二つの反イスラエル陣営のうち、多数派であるスンニ派主導勢力と宥和を図りつつ、イランによる少数派シーア派主導勢力を壊滅させることが、戦略目標と考えられます。多数派を壊滅させるよりも、少数派を壊滅させる方が圧倒的に実現しやすいからです。

 イスラエルにとって、2023年10月のハマスによる攻撃は、痛手であったはずですが、これを好機と捉えて、反イスラエル陣営の全体的な縮小を図っています。故に、イスラエルは、ハマスと「シーア派の三日月」を事実上無力化させるまで、戦闘を続行するでしょう。 そして、イランに対しては、直接的に軍事攻撃を加えることで、「シーア派の三日月」を再び形成しないようメッセージを送り続けるとみられます。

以 上

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