スパイニュース解説・2024年10月イスラエル・イラン軍事衝突002:ミサイル攻撃の応酬による探り合いが続く中東地域

スパイニュース解説記事

中東地域の影響力を競ってメッセージを送り合うイスラエルとイラン(SPY-NE006)

イスラエルとイランの軍事衝突をもたらしたハマスのイスラエル侵攻

 2023年10月に、ハマスがイスラエル南部を攻撃して、イスラエルとハマスの非対称戦が始まりました。これに呼応するように、ハマスと連携するレバノンのシーア派民兵組織ヒズボラが、イスラエル北部にロケット弾を発射することで、イスラエルの南北で戦闘が展開されます。

 半年後の2024年4月には、イスラエルがシリアにおけるイランの外国公館を攻撃し、イランが、イスラエル本国にミサイルを撃ち込むという国家間の軍事衝突に発展しました。

 そして、7月には、イランの代理人の一つであるイエメンのフーシー派がイスラエルに向けて、ミサイルを発射しました。

 10月になると、イスラエルがレバノンに地上侵攻して、これに対抗するイランとの間で、ミサイル攻撃の応酬が発生します。11月に入ると、イランの代理人の一つであるイラクの民兵組織がイスラエルを攻撃するとされています。

こうして、パレスチナ自治区ガザから始まった戦闘は、イランとその代理人たちであるシーア派主導勢力という複数の国家を跨った紛争にまで拡大しました。イスラエルとイランは、こうした紛争拡大にどのような意図を有しているのでしょうか。両国は、紛争を通じて、どのようなメッセージを互いに送り合っているのでしょうか。

イスラエルがハマスとヒズボラと交戦しながらイランに送りつけたメッセージ

 イスラエルにとっては、ガザ地区からハマスが侵攻してきて、レバノンからヒズボラがミサイルを発射してくることで、当面の敵は、ハマスヒズボラになるのが道理です。両者は、イスラエル本国に直接脅威を与えており、その排除又は無力化が喫緊の課題となるからです。このため、イスラエルは、ハマスとヒズボラに反撃してみせることで、背後にいるイランに対し、間接的に圧力を掛けようとメッセージを送ります。

 こうした中、イスラエルは、2024年4月になって突然、在シリア・イラン大使館を空爆しました。シリアには、当面の敵であるハマスとヒズボラが存在していません。ましてや、主権国家の外交施設を攻撃するなど、国家間の戦争や紛争になっても不自然ではありません。そもそも、イスラエルとイランが直接、軍事衝突したことはありませんでした。

 イスラエルは、こうした空爆の実行を公式に認めていません。しかし、自らの仕業であることが、イランからお見通しなのは分かっているはずです。それでもなお実行した背景には、イスラエルがイランに過去にないレベルの強烈なメッセージを送るためと考えられます。

 つまり、イスラエルがイランに対し、ハマスとヒズボラを代理人として、背後でイランが糸を引くことに、忍耐の限界を超えたというメッセージであったとみられます。その上で、今回はイラン本国を狙わずにおくが、これ以上ハマスとヒズボラを通じてイスラエルを攻撃する場合、次は、イラン本国を直接攻撃するという警告です。

イスラエルからのメッセージに対抗措置を講じるというイランの返信メッセージ

 イランは、非公式ながらもシリアの自国大使館を攻撃されたことで、イスラエルからの警告メッセージを受け取ったことになります。ハマスとヒズボラを通じてパレスチナ問題に軍事介入を続ければ、イスラエルがイラン本国を直接攻撃してくる可能性があると理解したはずです。

 イランは、標的となったのが、外交案件を扱わない大使館領事部であったとはいえ、公館施設が攻撃されたこともあり、自国権益への直接的な侵害と評価します。この評価に従い、どのような対抗措置を講じるか検討しなければなりません。

 ここで対抗措置を講じることなく、放置すれば、イスラエルに対し、イランはイスラエルとの直接対決を避けているとみられかねません。俗に言えば、イスラエルから「なめられてしまう」ということです。

 イスラエルは空爆実行を公式に認めないままですが、イランは攻撃直後に、イスラエルを名指しして報復すると発表しました。そして、約2週間後に、イスラエル本国を標的として、約300発のミサイルを発射しました。

 イラン革命が起こって以降、両国は半世紀にわたって敵対してきました。ただ、直接的な軍事衝突を避けて、ハマスやヒズボラなど代理人を通じて間接的な衝突にとどめていました。しかし、イランによるイスラエル本国へのミサイル攻撃は、初めての直接的な軍事衝突となりました。

 つまり、イランは、イスラエルに対し、直接的に武力紛争を交わす用意があるとの挑戦メッセージを発したのです。これは、両国の対立関係が従前よりも深刻な段階へ一歩進んだと示唆しています。

ハマスとヒズボラを攻撃されたイランがイスラエルに送ったメッセージ

 イランは、イスラエル本国を直接攻撃することで、イスラエルのみならず、自らの代理人であるハマスとヒズボラに対しても、メッセージを送っています。

 ハマスは、イスラエル軍によるガザ地区への陸上侵攻を受けて、幹部を次々と失っています。ヒズボラもハマスを支援して、ロケット弾を発射することでイスラエルと直接戦っています。両者いずれも、イランの代理人としてイスラエルと正面から対峙して、被害を被っています。イスラエルは、両者と交戦しつつ、在シリアイラン大使館を直接攻撃することで、イラン自身を戦闘に引きずり込もうとしました。

 ここで、イランがイスラエルとの直接的な軍事衝突を回避すれば、それは、イスラエルに対してのみならず、ハマスやヒズボラに対しても、イランがガザ地区とレバノン南部の戦闘を、他人事のように素知らぬふりを決め込むという印象を与えかねません

 確かに、ハマスとヒズボラはイランを支持する武装勢力ですが、彼らの関係性はあくまでも、パレスチナ人とレバノン人とイラン人という外国人同士に過ぎません。イランがペルシャ人である一方、レバノン人とパレスチナ人はアラブ人ということで、民族も異なります。そして、ガザ地区とレバノンとイランという距離の離れた場所で活動しており、互いに親近感もありません

 つまり、彼らは、反イスラエルで共闘しながらも、距離が離れた場所で活動する異民族の外国人同士、というのが本質的な関係性となります。このため、イスラエルと直接対決するハマスとヒズボラに対し、イランが他人事という印象を与えてしまえば、両者は、イランによる求心力を失い、そのコントロールを離れて独自行動を取りかねません

 イランは、自らの代理人たちに対し、自身もイスラエルとの紛争に直接的に軍事介入してみせることで、求心力を維持する必要があるのです。そうしなければ、各地に点在する少数派のシーア派勢力を統合し、一致協力してイスラエルに敵対するというパレスチナ問題への介入戦略が崩壊してしまいます。

ヒズボラ幹部を排除してレバノンに陸上侵攻したイスラエルに対するイランのメッセージ

 イスラエルによるハマスとヒズボラへの軍事攻撃は止む様子がなく、2024年9月には、ヒズボラ指導者のナスララ師が殺害され、翌10月には、ハマス指導者のシンワル師がガザ地区で死亡しました。さらに、イスラエルは、ヒズボラを陸上から壊滅させるため、限定的ながらもレバノン南部で地上戦を開始しました。

 イスラエルが、ハマスの実効支配地域であるガザ地区とヒズボラの活動地域であるレバノン南部にそれぞれ陸上侵攻し、双方の指導者を殺害したことは、イランに対するメッセージとなります。つまり、ハマスとヒズボラについては、イランと交渉する余地なく、問答無用に壊滅させるというイスラエルの意思が明確に示されたと考えられます。

 イランにとっては、ガザ地区とレバノンにおける自らの代理人が壊滅させられるとすれば、イスラエルから直接、挑戦状を叩きつけられたに近いでしょう。これを裏付けるように、イランは、ハマスとヒズボラの壊滅を意図した攻撃は、すなわちイラン本国に対する攻撃と同様にみなすと判断し、ナスララ師の殺害直後にイスラエルへの報復を表明します。

 そして、10月1日には、イスラエル本国に向けて、約180発のミサイルを発射しました。

 イランとしては、ハマスとヒズボラがイスラエルの攻撃に晒されて、指導者を失っている以上、これを看過すれば、やはり双方からの求心力を失うおそれがあります。そればかりか、イエメン、イラク及びシリアにおける代理人たちも、イランの出方を注視しています。イランがハマスとヒズボラの窮状を放置すれば、自分たちも彼らのように、イランから見放されるかもしれないとの危機感を有しているからです。

 イランにとっては、こうした代理人を全て失ってしまえば、少数派のシーア派国家として、中東地域で国際的に孤立します。故に、イスラエルに直接報復してみせることで、全ての代理人たちに対し、イラン自身の介入意思を示し、代理人たちを見捨てたりしないとメッセージを送らざるを得ないのです。

対峙し合うイスラエルとイランが抱え込まざるを得ない背景事情

 イスラエルにとっては、南北から脅威を与えてくるハマスとヒズボラを壊滅又は無力化させるほかに、選択肢がありません。彼らがロケット弾を発射してくる程度の攻撃に終始すれば、これは防空システムで対処可能であり、自国民の安全と安心に対する脅威になり得ません。

 しかし、境界線を越境して侵攻し、イスラエル南部の地元住民を襲撃したり、誘拐するならば、これは、自国民の安全と安心にとって無視できない脅威となります。そもそも、ガザ地区には、こうした事態を防ぐために、境界線を壁やフェンスで覆ったのです。それでも、2023年10月に、ハマスによる陸上侵攻が発生し、多数の人的被害が生じてしまいました。

 ハマスの現行体制とガザ地区の現状を容認すれば、同様の事態が再発する可能性が否定できません。もはや、イスラエルは、ハマスの存在自体を容認できません。レバノン南部のヒズボラに対しても同様です。ヒズボラがロケット弾を発射することで、イスラエル北部の地元住民の安全と安心が脅かされています。

 イスラエルは、ハマスとヒズボラの壊滅、少なくともその無力化が最低条件なのです。

 一方、イランにとっては、自らの代理人であるハマスとヒズボラが壊滅又は無力化される事態を、見過ごすわけにはいきません。見過ごせば、他の地域の代理人たちが、イランから離れて、離反するおそれがあるためです。ハマスと「シーア派の三日月」そしてイエメンのフーシー派と連携して、イスラエルに脅威を与え続ける包囲網こそ、パレスチナ問題におけるイランの基本戦略です。

あくまでもメッセージのやり取りとして繰り返されるイスラエルとイランの軍事衝突

 したがって、イスラエルとイランは、軍事衝突を繰り返すことでメッセージを送りつけ合い、互いの立場を探り合うほかありません。

 イスラエルは、イランが代理人からの求心力を維持するため、軍事攻撃を直接仕掛けざるを得ない立場にあると理解しているはずです。イスラエルに対するイランのミサイル攻撃は、損害状況から見て、限定的な軍事施設に標的が絞り込まれています。少なくとも、イスラエルという国家自体を破壊する性質で行われていないことが明らかです。あくまでも、代理人たちに見せつけるための攻撃というわけでしょう。

 イランの方も、イスラエルが自国民への脅威を除去できるまで、ハマスとヒズボラに対する軍事作戦を継続すると理解しているはずです。イランに対するイスラエルのミサイル攻撃も、損害状況から見て、限定的な軍事施設に標的が絞り込まれています。仮に、イランという国家自体を破壊するのであれば、核施設や石油施設に被害が生じているはずです。イスラエル本国をミサイルで攻撃されている以上、同等のレベルで報復してみせなければ、ハマスとヒズボラに対して、イスラエルの本気度を思い知らせることができないからです。

 故に、イスラエルもイランも落とし所を探っている状況です。少なくとも、イスラエルが、ハマスとヒズボラからこれ以上脅威を受けないようにしつつ、イランの代理人たちが健在でいられるという条件が揃う必要があります。

 こうした条件を揃えるためには、米国や中東諸国が双方の仲介することも求められます。双方が矛を収めるまでは、ある程度時間を要するとみられ、長期化する可能性は否定できません。

以 上

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