2025年04月:中国の官民一体となった「スパイ活動」の実態:全国民を「スパイ活動」に投入する中国の国家総動員スパイ体制とは?

スパイニュース解説記事

中国の官民一体となった「スパイ活動」の実態:全国民を「スパイ活動」に投入する中国の国家総動員スパイ体制とは?(SPY-NE029)

すし握りながらスパイ活動の摘発

 2025年3月24日、米国の「移民・税関捜査局」(ICE)は、合法的な入国条件を満たしていないとして、東部ニュージャージー州で料理店を営む中国籍のチャン・ミンシー容疑者を逮捕したと発表しました。 

 米国当局によれば、チャン容疑者は複数回に渡り、中国政府に情報提供などを行ったとして、2024年4月に有罪判決を受けました。

 2000年に、米国へ入国した後、ニュージャージー州で、アジアレストラン「ヤ・ヤ・ヌードルズ」を経営していました。自身も寿司職人として寿司を握り、客に提供していたことから、「スシ・ジョン」の異名を取っていました。

世界各国で飲食店を営む中国人

 寿司職人であったチャン容疑者の逮捕は、「中国人は全員スパイ」という都市伝説があたかも事実であるとの印象を与えます。

 彼は、寿司店を経営するばかりでなく、寿司職人として専門技術を有するとみられます。職人芸を体得するまでは約10年を要するともいわれ、チャン容疑者が情報機関に所属する正規職員であったとは考えられません。

 つまり、純然たる民間人であり、何らかの形で中国の情報機関から接触を受けて、協力するようになったとみられます。そして、不運にも、こうした協力が現地当局から「スパイ活動」に認定されてしまい、逮捕に至ったのでしょう。

 チャン容疑者が、情報保全を含むスパイとしての訓練をどの程度受けていたかは不明ですが、こうして逮捕されてしまった以上は、「スパイ活動」に精通していた専門家と思えません。

世界に存在しない国はない中国料理レストラン

 今回の舞台は日本食料理店でしたが、中国人が世界各地で料理店を営む事例は、無数に存在します。日本食ブームもあって、欧米諸国では、日本食料理店が多数所在しますが、その約65%が中国人又は韓国人の経営と言われ、チャン容疑者もその一人とみられます。

 ただ、中国人の場合はやはり、中国料理店を営むことが多く、世界各地には、欧米やアジアを中心に、中国料理店が約50万か所経営されていると言われます。米国には、世界トップレベルで中国料理店が多数存在しており、ニューヨークなど大都市は数千か所に上るとされます。

 主要国のみならず、アフガニスタン、シリア、リビア、イエメンなど紛争地域においても、中国料理店が存在しており、「地球上で中国料理店がない国は存在しない」という都市伝説もあります。

 中国国外には、世界150か国以上5000万人に上る中国人が住んでおり、「波が届く地域すべてに華人がいる」と言われるほど、中国人が世界の隅々で生活しています。故に、中国料理店も、その需要を満たすために世界中で営業されているわけです。

世界最多の中国料理レストランがひしめく日本

 中国本土に近い日本は、世界有数の中国料理店を誇っており、店舗数は5万5000か所とされます。これは、全世界に存在する中国料理店の約10%に相当し、米国の約4万か所を上回って、世界第一位です。東京には、約9000か所が集中しており、中国料理店を見ない地域はありません。

 日本に在留する中国人は、約87万人と世界第三位であり、その需要を満たすために、日本全国で営業されていると考えられます。ただ、米国には、世界第二位の約500万人以上の中国人が在留しながらも、中国料理店の店舗数では日本を下回っており、中国料理店が、中国人以上に日本人の間で深く浸透している実態がうかがわれます。

 中国料理店はもはや、日本の外食インフラの中心的な存在です。

都内の中国料理レストラン経営者の逮捕

 2025年2月5日に、中国籍の元外交官の徐耀華(じょ・ようか)容疑者らが、新型コロナウイルス対策の給付金の詐取容疑で逮捕されました。徐容疑者は、都内で複数の中国料理店を経営しており、その一つである「御膳房」のホームページには「歴代首相を始めとする日本政財界、中国大使館などによくご利用されています」などとありました。中国大使館とのつながりがうかがわれるほか、日本の政財界とのパイプまであったとみられます。

 警視庁公安部は、関係先とされる約20か所を家宅捜索しました。これは明らかに、単なる支援金詐取という刑事事件の捜査体制ではなく、国家の安全に脅威を及ぼしかねないという公安事件です。つまり、徐容疑者経営の中華料理店が、中国の「スパイ活動」の拠点となっていたという防諜活動の一環とみられます。

 中国料理店は、日本でありふれた外食インフラですが、「スパイ活動」の隠れ蓑として用いられている実態もうかがわれます。

都市伝説を事実にしかねない中国政府の情報政策

 こうした実態を踏まえると、日本中の中国料理店でも、同じことが行われているとの疑いが生じて、例の都市伝説がますます事実に思えてしまいます。日本には、5万か所を超える中国料理店が所在していますが、その全てで「スパイ活動」の隠れ蓑になっていることなどあり得るでしょうか。

 中国では2017年に、「国家情報法」という法律が制定されました。目的は、中国の国家の安全と利益を守るため、「スパイ活動」を強化し、情報機関のスパイの規律や国民の義務を明確にすることです。その中には、「いかなる組織及び公民も、国家情報工作を法に基づき支持、協助、協力しなければならない」と定める規定があります。

 つまり、中国国内外を問わず、企業や個人は、中国当局の「スパイ活動」に協力するよう命令を受けて、これに従うよう義務付けられています。

中国人経営レストランを「スパイインフラ」への転用を企図する中国

 「国家情報法」の規定に従えば、中国料理店の在日中国人も、中国の情報機関に所属するスパイに対して「スパイ活動」への協力を法律で義務付けられていると解釈できます。こうなると、日本中の中国料理店は、「スパイ活動」の潜在的な拠点であり、いついかなる形で「スパイ活動」の隠れ蓑に利用されても不自然ではありません。

 これを根拠とすると、「中国人は全員スパイ」は、単なる都市伝説と否定できなくなります。むしろ、案外本当であったとの印象を拭えません。

 中国料理店は、日本の外食インフラの中心的な存在ですが、同時に「スパイ・インフラ」として転用可能な条件が整っているのです。

世界各国の最高学府に派遣される中国人留学生

 こうして「スパイ・インフラ」に転用され得るのは、中国料理店だけではありません。

 中国は、100万人に上る留学生を世界150か国以上に派遣しており、その派遣規模は世界第一位とされます。派遣先としては主に、欧米とアジア大洋州であり、米国には最も多くの中国人留学生が派遣されています。

 日本に対しても約11万人が派遣されており、これは、外国人留学生の合計が約28万人であるため、全体の約40%に相当します。国籍別では国内第一位であり、早稲田大学、東京大学、立命館大学など有名校では、留学生の中で最多を占めています。

 日本に留学した外国人の一部は留学期間の終了後に、在籍校に残って研究者の道を目指すことがあります。中国人の場合は、留学生の在籍数と同様に、研究者の在籍状況においても国籍別で、米国を上回って世界第一位とされます。

 日本の教育インフラである大学においても、中国人が一定の勢力を形成していることがうかがわれます。

消息不明となった在日中国人の教授が複数存在

 2023年2月に、亜細亜大学の中国人教授である范雲濤(はん・うんとう)氏が一時帰国して以降、学内で姿を見せなくなりました。日本の残る家族からは休職手続きが取られて、依然として行方が判明していません。

 2023年8月には、神戸学院大学の中国人教授である胡士雲(こ・しうん)氏が一時帰国して以降、家族から連絡が取れないなどと消息不明となりました。2025年3月になって、1月頃に日本に戻っていたことが明らかになりましたが、連絡が途絶した理由や経緯などは不透明なままです。

 いずれも、日本の大学に在籍する中国人研究者が一時帰国したタイミングで消息を絶っており、帰国後に中国当局に拘束されたとの憶測が生じています。

中国人研究者を「スパイ・インフラ」への転用を企図する中国

 憶測の背景には、「国家情報法」や2014年に制定された「反スパイ法」の存在があります。「反スパイ法」とは、中国の安全を害する外国の「スパイ活動」を取り締まる法律です。

 これらの法律に基づけば、中国人研究者はいついかなる時も、中国の情報機関から協力を義務付けられたり、逆に日本の「情報機関」のスパイと疑われても不自然ではありません。協力命令や取調べのために、一時帰国中の中国人研究者が拘束された可能性は否定できません。

 日本の大学は、最新分野の研究として世界的に評価を受けるところも少なくなく、中国人研究者の中には、こうした研究にアクセスできる者も存在します。軍事分野や経済分野に転用可能な日本の最新技術は、中国の情報入手に向けたターゲットともなっています。中国人研究者も「スパイ・インフラ」へ転用され得るわけです。

 こうなると、日本に住むあらゆる中国人が「スパイ・インフラ」へ引き入れられている現状がうかがわれ、「中国人は全員スパイ」という都市伝説は、緩やかながらも都市伝説でなくなりつつあります。

自国政府の方針に複雑な胸中を隠せない中国国民

 こうして「スパイ活動」にいついかなる時に動員されかねないことに、中国国民は内心どのように受け止めているのでしょうか。

 2023年8月に、「国家安全部」は、中国の対話アプリ微信(ウィーチャット)で、「スパイ活動」から自国を守るためには国民参加による防衛措置が必要と訴えました。

 これに対し、中国国民の間では、「スパイの定義が曖昧なまま、一般市民や海外在住者までが巻き込まれるのではないか」、「自分も知らないうちにスパイ容疑をかけられるのでは」などと不安が生じています。

 法律で、国家の「スパイ活動」への協力を国民に義務付けるなど、民主国家では到底考えられません。共産主義国家を標榜する中国ならではの特徴と言えます。

 果たして、協力を強制する「スパイ活動」にはどの程度の実効性があるでしょうか。

自発的な協力を引き出すことこそスパイの真骨頂

 「スパイ活動」とは、必要な情報を継続的に提供してくれる情報源を構築することです。スパイの仕事は、情報源になり得そうな対象者を探し出し、人間関係を構築する、つまり仲良くなって協力を了承させることです。

 そのためには、対象者の性格、嗜好、思想性、家族関係、悩み事など調べて、仲良くなるためにどのようなアプローチが望ましいかを考えねばなりません。アプローチした後は、繰り返し会って、会話を繰り返す中で、対象者から信頼を得る必要があります。信頼を積み上げながら、協力内容を説明して理解を求め、最終的には、協力意思を確認することになります。

 これは、スパイが古代から現代に至るまで繰り返されたプロセスであり、このプロセスをいかに進めるかにこそ、スパイの真骨頂があります。

強制によって入手された情報に実効性なし

 しかし、「スパイ活動」への協力を法律で半ば強制する中国のやり方は、スパイの歴史的なプロセスを無視しています。協力を嫌がったり、協力を拒む者から無理やり情報を奪うことで、「スパイ活動」が成立した歴史はありません。スパイが必要とする協力には、何よりも自発的な意思が求められ、こうした自発性にこそ、スパイと情報源の間で信頼が存在することの証なのです。

 中国の「スパイ活動」には信頼が無視されており、これは、中国の情報機関に所属するスパイたちの諜報能力を低下させるでしょう。スパイは、あらゆる者から自然な形で信頼を得るべきであり、これ無くして強制によって情報収集が可能ならば、信頼を得るスキルやノウハウがいつまで経っても得られません。

 中国の情報機関ではやがて、未熟なスキルとノウハウしか持たないスパイが大半を占めるようになり、中国の「スパイ活動」は実効性を失っていくでしょう。

都市伝説として真実味がありながらも必要以上に懸念すべきではない

 「中国人は全員スパイ」とは、必ずしも都市伝説ではなく、中国政府による「スパイ活動」への強制が法的に定められている点で、ある程度の真実味を帯びています。そうなると、日本国内には、約84万人の中国人が在留しているため、約84万人のスパイが日本に潜伏しているということにもなりかねません。

 同時に、中国国民にとっても、中国の情報機関のスパイにとっても、実効性のある「スパイ活動」が担保されていないことも事実です。したがって、都市伝説で言われるほど多人数のスパイがいるとしても、その数字に相応するほど懸念すべきではありません

以 上

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