日本でスパイに成ることは決して夢ではないルート3選(SPY-NE024)
スパイに成ることは決して夢ではない
2025年2月に、人事院から国家公務員試験一般職の開催日程が発表され、3月時点で申込を受付中です。実は、この試験こそ、日本でスパイに成るには最もポピュラーなルートだったりします。
皆さんは、スパイに成ろうと考えたことはありますか。そもそも、スパイなんて本当に存在するか疑問すらあるでしょう。
もちろん、スパイは実在します。例えば、「情報機関」と呼ばれる政府機関には、情報収集を担当する職員が在籍しており、一般的な理解では「スパイ」に該当すると考えられます。つまり、「情報機関」に採用されることで誰でもスパイに成ることは可能です。
「情報機関」は政府機関の一つであるため、スパイの身分は公務員となります。故に、日本の場合は、公務員試験を受験して合格し、それぞれの「情報機関」の面接を経て採用されることが一般的なルートとなります。
スパイに成るとは大まかに言えば、公務員を目指すような感覚で問題なく、決して夢物語ではありません。

歴史的に限定されてきたスパイの採用ルート
歴史的に、スパイは採用ルートが限定されてきました。現在のように一般公募が本格化したのは、東西冷戦後の1990年代からです。世界最古の近代情報機関で知られる英国秘密情報部(MI6)は、2005年になって創設以来初めてとなる一般公募を行いました。
「情報機関」には、敵対する組織や個人などが常に存在しており、こうした敵対者からの情報収集が最大の任務となります。逆に、敵対者から情報を盗まれるおそれがあるため、スパイの採用に当たっては、慎重にならざるを得ません。
最も安全と考えられるのは、情報機関にすでに所属するスパイの家族や親戚などから、縁故採用することです。時には、スパイが情報収集する中で、適性があるとみなされた者をスカウトすることまでありました。
現在のように一般公募が始まるまでは、公務員試験を経ることがない縁故採用が主体でした。誰でもスパイに成ることができたわけではなく、何らかのコネクションが必要だったわけです。

日本においてもスパイに成るためのルートは限られている
日本も同様の事情にあります。現在の「情報機関」は、第二次世界大戦後に創設されました。創設直後は、終戦間もなく発生した暴力的な共産主義運動への対策を主な任務としていました。共産主義運動に関与する組織や個人と敵対しており、こうした敵対者から採用してしまわないよう警戒しなければなりません。
「情報機関」には、スパイの大半が、公務員試験を受験していない縁故採用者であり、公務員試験の合格者からの採用が少数にとどまるという時代がありました。公務員採用を一括管理する政府機関として人事院がありますが、人事院からは、公務員試験の制度を半ば無視した採用実態として苦情が出たほどです。
現在は、公務員試験の合格者からの採用が主流ですが、縁故採用しなくなった代わりに選考採用が並行して行われています。選考採用は採用人数が数名に過ぎずないため、狭き門となっています。
歴史的な経緯もあって、他の職種に比べると、スパイの採用ルートは、まだまだ限定的と言わざるを得ません。

日本における「情報機関」とスパイの概要
それでは、具体的にどのような「情報機関」があるのでしょうか。日本政府には、「情報コミュニティー」と呼ばれる「情報機関」の集まりが存在します。この情報コミュニティーを構成する主要メンバーとしては、①内閣情報調査室、②警察庁、③公安調査庁、④外務省そして⑤防衛省の5つが指定されています。
そのうち、警察庁の「情報機関」とされるのは公安警察であり、外務省の「情報機関」とされるのは国際情報統括官組織であり、防衛省の「情報機関」とされるのは情報本部です。

これら5つの「情報機関」の人員規模については、内閣情報調査室が200人規模、公安警察の中核をなす警視庁公安部が1000人規模、公安調査庁と防衛省情報本部が2000人規模、そして外務省国際情報統括官組織が100人規模と見積もると、5000人以上となります。つまり、これが日本のスパイの人口規模ということです。
米国の場合、国家情報長官室(ODNI)や中央情報局(CIA)など情報コミュニティーを構成する情報機関の人員規模は、合わせて約20万人とされます。これは、日本の約40倍に相当します。日本と米国の全人口比をおよそ1対3と考えると、日本のスパイ人口がいかに少ないかが分かります。
米国など外国に比べると、日本ではスパイの採用ルートが限定的と言わざるを得ません。

スパイは必ずしも専任採用されるわけではない
日本の「情報機関」の中には、スパイを専任採用しているところばかりではありません。例えば、公安警察は、あくまでも警察の内部組織であり、外務省国際情報統括官組織も外務省の内部組織です。独立した「情報機関」ではなく、スパイの独自採用も行われていないため、「採用イコールスパイ」となりません。
公安警察の場合、警察組織の内部から推薦を経て配属されるため、一度は警察官採用試験を受けて警察官に採用される必要があります。外務省国際情報統括官組織も、内部の異動を経て配属されるため、一度は公務員試験を受けて外交官に採用される必要があります。採用されてもスパイに成ることが保証されておらず、採用後しばらくは、スパイ以外の業務を経験することになるでしょう。
内閣情報調査室も内閣官房の内部組織であり、防衛省情報本部も防衛省の内部組織です。ただ、スパイの独自採用を行なっているため、「採用イコールスパイ」となります。
公安調査庁は、法務省の内部組織ではなく、外局という位置付けであり、法務省から一定程度の独立性があります。その上で、スパイの独自採用を行なっているため、「採用イコールスパイ」となります。
スパイを専任採用する「情報機関」ばかりでない点においても、日本ではスパイの採用ルートが限定的です。

正社員のスパイと派遣社員のスパイ
一口にスパイに採用されると言っても、採用ルート次第では、民間企業のように正社員と派遣社員という待遇に分かれます。
例えば、公安警察は、警察官採用試験を受験した警察官で構成されるため、この時点で正社員に相当します。内部異動を経て配属されるため、基本的に正社員のスパイとなります。雇用期間に制限がなく、スパイならではの組織外部における情報収集を担当して、スキルやノウハウを習得できます。
一方、公安警察以外の「情報機関」では、公務員試験と別に、非常勤職員や任期制職員が採用されており、これは、派遣社員のスパイと考えられそうです。ただ、業務は原則、公開情報の収集や事務作業の補助など内部事務に限定されます。スパイならではの組織外部における情報収集を担当せず、雇用期間も限られているため、スキルやノウハウの習得が困難です。これでは、スパイに成ったとは言い難いでしょう。
正社員こそ、一般的なスパイのイメージに相応しいと考えられるため、やはり公務員試験の受験が必須となります。

文系のスパイと理系のスパイ
スパイにも、取り扱う情報の種類次第で文系と理系に分かれた採用ルートがあります。スパイが取り扱う情報は、代表的な分類として、ヒューミント(人的情報)、オシント(公開情報)、シギント(電子情報)、イミント(画像情報)が挙げられます。
ヒューミントとは、人から人へ伝わるという意味で「人的情報」とも呼ばれており、人類社会で最も古い職業の一つとされるスパイが、古代から取り扱ってきた情報です。情報の代表格であり、情報とはすなわちヒューミントを指すと言って過言ではありません。その収集に当たっては、必ずしも特殊な知識や技能を必要としないため、文系出身者によって占められてきました。
近代に入って科学技術が発達すると、出版物に記録された公開情報のオシント、通信機器に記録された電子情報のシギント、航空機や監視衛星に記録された画像情報のイミントなど、情報が多様化しました。その収集に当たっては、特殊な知識や技能が必要とされるため、理系出身者の得意分野です。
「情報機関」では長く文系出身者が優勢でしたが、近年は理系出身者の採用が進んでおり、公務員試験では、文系の事務区分と理系の技術系区分に応じた採用ルートが用意されています。
以上を踏まえて、具体的なルート3選を見ていきましょう。

正社員のスパイに成るルートその1:国家公務員試験
人事院が毎年主催する国家公務員試験を合格し、内閣情報調査室、公安調査庁又は防衛省情報本部を官庁訪問して採用されるルートです。国家公務員の一般職(行政)からの採用人数が最も多く、総合職については、公安調査庁で若干名しか採用されていません。一般職のうち、行政は文系向けであり、技術系は理系向けですが、採用人数は技術系より行政の方が多くなっています。
正社員のスパイに成るルートその2:選考採用試験
それぞれの「情報機関」は、国家公務員試験で計測できない専門性を確保するため、独自に選考採用試験を行なっています。
英語を除く特殊言語、IT通信技術、プログラム技術など情報を取り扱う上では様々な知識や技能が必要とされるためです。特に、防衛省情報本部は、ヒューミント以外の情報を取り扱うため、高い専門性が要求されます。
ただ、国家公務員試験と異なり、選考採用試験は毎年必ずしも行われるわけではなく、採用時期もまちまちであり、採用人数も若干名と狭き門となっています。
正社員のスパイに成るルートルートその3:内部選抜
公安警察に限れば、最初に、警察官として採用される必要があります。次に、公安警察官になるために、警察内部で厳しい選抜を通過しなければならないとされます。
例えば、警視庁の場合、警察官約4万3000人のうち、警視庁公安部に所属するのは約1000人と見積もると、約2%しかいないため、狭き門となっています。

国家公務員試験(一般職)の合格が最短ルート
スパイに成るための最短ルートは、毎年採用の機会があり、採用人数も多い点から、国家公務員試験の一般職を合格することです。合格すれば、少なくとも内閣情報調査室、公安調査庁そして防衛省情報本部を官庁訪問することができます。
これら3つには、日本のスパイ人口約5000人以上のうち、約80%に当たる4000人以上が集まっており、日本において代表的な「スパイ・リクルートメント」となっています。

最もスパイに成りやすいルート:公安調査庁
公安調査庁は、日本有数の「情報機関」です。公安警察には相当数のスパイが所属していますが、人員数が公表されていません。防衛省情報本部は、採用パンフレットで「我が国最大の情報機関」を公称しており、公安調査庁は、これに次ぐ人員規模とみられます。
内閣情報調査室は、人員規模が小さいため、採用人数も毎年10名程度ですが、公安調査庁の場合、同じく全国で50名から100名程度です。
公安警察と外務省国際情報統括官組織では、独自採用が行われておらず、いずれも公務員試験を経て一度は警察官や外交官になる必要があります。その上で、内部の異動人事を経て、配属されなければなりませんが、公安調査庁は、独自採用されており、「採用イコールスパイ」となります。
防衛省情報本部は、国家公務員試験一般職以外にも、専門職試験や選考採用試験を行なっており、採用ルートが複数存在します。公安調査庁は、採用者の大半が国家公務員試験一般職の合格者であり、ほぼ単一のルートです。
したがって、公安調査庁は、採用人数が多く、「採用イコールスパイ」であり、採用ルートがほぼ一本化されているという点で、「情報機関」の中で最もスパイになりやすいと言えます。

純然たる「情報機関」ではないが「情報機関」としての体裁を持つ公安調査庁
公安調査庁はそもそも、「情報機関」として発足したわけではありません。終戦直後に暴力的な共産主義運動が高まり、過激な左翼団体の活動を規制することを主な目的として、創設されました。公安調査庁が所管する破壊活動防止法には、情報収集に関する規定や文言は存在しておらず、あくまでも「規制に関して必要な調査ができる」などとあるだけです。こうした法的枠組は現在も変わっておらず、純然たる「情報機関」とは言い難い実態にあります。
ただ、内閣情報調査室と外務省国際情報統括官組織に比べて人員規模が大きく、防衛省情報本部が特化していないヒューミント(人的情報)を中心的に取り扱います。公安警察は、逮捕権や捜査権など強制権を有する法執行機関でもあるため、公安警察と比較すれば、まだしも純粋な「情報機関」に近いとも考えられます。
日本では、公安調査庁が他に比べると「情報機関」の体裁を整えていると言えます。世界標準では、国内情報機関である英国の内務省保安局(MI5)や同じくドイツの連邦憲法擁護庁に近いとされます。いずれも強制権限を有しないまま情報収集を行うという点では、公安調査庁と共通点があります。

スパイは成る前よりも成った後の方が大変
したがって、スパイに成ること自体はそれほど難しくありません。ただ、スパイという職業は、成る前よりも成った後の方が大変です。
そもそも、情報という目に見えず触れることもできないものを取り扱うわけです。情報を集めるためのルートや手段も様々であり、必ず成功する方程式はありません。
一度はスパイに成ってみたものの、スパイの職場は、古めかしい習慣や理不尽なルールなど世間離れした世界観が存在しており、戸惑いと失望を覚えるかもしれません。新人スパイの中には、スパイを続けられずに退職する者もいます。
退職しないまでも、スパイとしての適性が無いと判断されれば、情報収集以外の業務に異動されます。「情報機関」には、常に敵対者が存在しており、適性の無い者をスパイ活動の最前線に出せば、格好の餌食とされるからです。

当ブログサイトでは、スパイに憧れて、とある「情報機関」に採用された若者が、新人スパイとして様々な試練にぶつかりながら、乗り越えていく創作マンガを連載中です。スパイを志す方は一度、目を通して、スパイ独特の世界観に触れておくとよいかもしれません。

以 上



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