核開発をめぐって過去の因縁が深いトランプ次期大統領とイラン(SPY-NE010)
トランプ再選で中東地域における動向が注目されるイラン
2024年11月に、トランプ再選の報道は世界各地を駆け巡りました。それは、イスラエルとイランの対立が続く中東地域においても例外ではありません。
イスラエルのネタニヤフ首相は直後に、歓迎の意を示しており、イスラエルにとっては追い風が吹き始めたことがうかがわれます。
一方、イランは表面上、平静を装っており、政府報道官が「我々には関係がない」などの見解を発表したくらいです。しかし、イラン通貨「イラン・リヤル」は、過去最大の下落を記録したとされ、これは、次期米国政権による経済制裁の強化が見通されているためとみられます。中東地域では、トランプ再選によって、イランに対する注目度が一層高まっています。

トランプ米国次期政権に平静を装うイラン
トランプ再選後から現時点に至るまでは、最高指導者ハメネイ師をはじめとするイラン指導部には、米国の大統領選挙の結果や次期政権の誕生について特段の反応も確認されていません。沈黙を保っており、これに対しては様々な憶測を呼んでいます。
イランは、2018年にトランプ前政権によって、核開発合意を一方的に破棄され、経済制裁を課された経緯があります。そのトランプ前大統領が、2025年から米国大統領に就任するとなれば、内心では警戒しないわけにいかないでしょう。
取り分け、トランプ前政権がイスラエル寄りの対外政策を講じた経緯も踏まえると、イランがイスラエルと史上初めて軍事衝突するなど、対立を深めていることもあります。トランプ次期政権が、イスラエルとイランの対立を軽視することなど考えにくいでしょう。
イランから見ると、敵対者の背後に、より強力な敵対者が現れ、敵対者同士で連携してくる可能性が高いということになります。これでは警戒しないわけがないでしょう。

トランプ政権の始動前から水面下でやりとりするイラン
大方の見方どおり、イランは、トランプ再選から数週間後、水面下でトランプ次期政権との接触を図った模様です。
11月25日付け共同通信の報道によれば、「イラン政府が、対イラン強硬姿勢のトランプ次期米大統領に『最大限の圧力政策をとらないよう求める』書簡を仲介役のカタールを通じて送った」とされます。詳細は定かではありませんが、イランは、核開発を交渉材料として、トランプ次期政権との対話を求めたメッセージとも考えられます。
こうした書簡が、非公式ながらもカタールを通じた外交ルートで米国に送られたとすれば、これは、イラン指導部レベルの高官が関与した可能性があります。つまり、イラン指導部の内部では、早くもトランプ次期政権に懸念を深めて、接触を図ろうとする動きがあるとみられます。イランは、指導部レベルで、トランプ次期政権からの圧力を警戒しているかもしれません。

トランプ前政権による経済制裁の影響と現状
イランがトランプ次期政権をこうまでして警戒することになったことには、明確な理由があります。それは、核開発合意の一方的な破棄と核開発疑惑を理由とした経済制裁です。イランは、この経済制裁によって、2018年以降、国内経済が大幅に悪化しました。
例えば、2018年4月時点で実勢レートが、1ドル47,730イランリヤルでしたが、2020年10月時点で、1ドル308,500イランリヤルとなり、約6分の1まで通貨価値が低下しました。
これに伴い、インフレ率も上昇し、経済制裁の開始から1年後の2019年4月には50%を超えるインフレとなり、2020年以降はおおむね30%台で推移しています。経済制裁によって、石油輸出が制限され、外貨を獲得する手段が限定されることで、自国通貨の国際的な価値が失われたのです。経済制裁が始まった2018年から6年が経過しており、その影響は広くイラン国内に浸透しているとみられます。

経済制裁を受けたイランの国民生活
6年にわたる経済制裁によって、最も大きな影響を受けたのは、イランの国民生活でしょう。食料品や日用品などの価格変動を示す消費者物価指数については、2022年12月から2023年1月で見ると、前年同月比で50%を超える上昇であり、食料品に限ると70%以上上昇したとされます。
日本における2023年10月の消費者物価指数は、前年同月比で3.3%の上昇であり、イラン国内の物価上昇が際立ちます。
こうした価格上昇の中で、食料品、日用品、医薬品などが大きな影響を受けており、イラン国民の生活が危機に瀕していることは想像に難くありません。イラン政府は、金利や通貨などで様々な政策を講じていますが、経済制裁の影響を打ち消すような効果的な成果は挙がっていないようです。

改革派候補が勝利した2024年大統領選挙
長引く経済制裁の影響は、国民の間に不満を募らせているかもしれません。2024年7月にイラン大統領選挙が行われ、改革派候補が過半数の得票で当選しています。イラン政権内部ではおおむね、イスラム体制を維持して反米・反イスラエルを掲げる保守派と、イスラム体制を変更して欧米との協調を掲げる改革派に分かれています。
当選した改革派候補のペゼシュキアン大統領は、経済立て直しとして、欧米との対話再開と核開発合意の再協議による経済制裁の解除を公約として掲げていました。背景には、長引く経済制裁によって、国民生活が圧迫されており、有権者からは、こうした公約が支持を集めたとみられます。
そして、その半年余り経過した後、トランプ政権の誕生が決まりました。トランプ次期大統領は、前政権時と同様、イランに圧力を掛けてくることが想定されており、改革派は、保守派と協力することで国民的な和解を求めています。
ペゼシュキアン大統領は、トランプ政権の数週間後の11月14日、国際原子力機関(IAEA)トップに対し、核査察の受け入れを表明することで、核開発問題に取り組む姿勢を見せました。イラン改革派は、トランプ政権の始動前から、対話実現に向けた取り組みをすでに始めており、内心では来たるトランプ政権に警戒せざるを得ないのでしょう。

保守強硬路線を堅持する最高指導者ハメネイ師
ただ、イスラム体制下では、イラン大統領があくまでも最高指導者ハメネイ師よりも下位にあります。ハメネイ師は、イランを反米・反イスラエル路線に転換した革命の後継指導者であるため、保守派の中心人物でもあります。
トランプ再選から数週間後、イランは、新型の遠心分離機の製造を命じたとの報道があり、西側諸国が懸念を表明しています。こうして、ウラン濃縮活動を拡大する方針を示すことで、核兵器の開発を進めて保有に至るプロセスを進めることは、トランプ次期政権への予防的な対抗措置とみられます。
つまり、ハメネイ師率いる保守派は、前政権時のようにイランに圧力を掛ければ、最終的に核保有も辞さないという強硬姿勢を示しました。保守派はトランプ再選後も、従来の反米・反イスラエルという強硬路線を崩していないとみられます。
ただ、国内経済は長引く経済制裁によって疲弊しており、改革派大統領が誕生するなど、国民が現体制に不満を募らせています。トランプ次期政権が経済制裁を更に強化すれば、国内経済が一層悪化し、国民の不満を抑えきれなくなるおそれがあります。
イラン保守派もまた、内心では、来たるトランプ政権に楽観視しているとは考えにくいでしょう。

トランプ再選後におけるイランの相反するメッセージ
イラン内部を二分する改革派と保守派がそれぞれ、トランプ次期政権への対抗策を講じることで、イランの対米外交は、対話の実現促進と核開発プロセスの進展という相反する内容となっています。
しかし、改革派と保守派に共通するのは、トランプ次期政権への高い関心です。双方とも、トランプ再選から数週間後に、メッセージを発することで、トランプ次期政権の反応をうかがっているとみられます。トランプ次期政権は、これらのメッセージに個別具体的な反応を示しておらず、イランは、トランプ次期政権の出方を可及的速やかに把握するため、今後も何らかのアクションを講じるでしょう。
現時点では、イランはあくまでも受け身にならざるを得ず、その対抗策は、トランプ次期政権の出方次第になります。故に、トランプ次期政権から、強行措置又は柔軟措置のいずれがあっても、直ちに対応できるよう和戦両様の構えにあるとみられます。
トランプ次期政権の始動まで残すところ1か月余りとなり、イラン政権内部は嵐の前の静けさといった様子でしょう。

トランプ次期政権からのあらゆる外圧が必至か
中東地域では、トランプ次期政権がイランにどのような政策を講じるかについて、関心が高まっています。
イスラエルは、2024年10月にイランと軍事衝突したばかりですが、トランプ再選後間もなく、イスラエルのコーエン・エネルギー相が、トランプ次期政権が対イラン強硬路線を取る見通しを示しています。これは、イランの核開発問題の再燃と経済制裁の強化を指していると考えられ、安全保障上でも経済上でも、イランに対する圧力が強まるとの見方があります。
さらに、外交上においても、イランに対する圧力が強まるかもしれません。イスラエルは、サウジアラビアとの国交樹立を目前にしながらも、ハマスによるイスラエル南部への攻撃により、一旦諦めざるを得ませんでした。
しかし、トランプ次期政権は前政権時、イスラエルと中東・北アフリカ諸国の一部の国交樹立を実現することで、2020年から始まる中東宥和を作り出した張本人です。政権始動後においても、イスラエルとサウジアラビアとの国交樹立に再び取り組むことが見通されており、仮に、これが実現すれば、反イスラエル陣営のうち、サウジアラビアが中心となるスンニ派主導勢力は、事実上消滅することになります。
そうなると、反イスラエル陣営で残るのは、イランが中心となるシーア派主導勢力のみであり、イランは外交上においても孤立化せざるを得ません。イランは、あらゆる面において、トランプ次期政権の外圧に晒される可能性があり、これに応じた対抗策を迫られることで苦境に立たされるでしょう。
こうした苦境によって、イランが核開発問題を最大の切り札として対抗するほかなくなるとみられます。中東地域の全体的な安定は、トランプ次期政権の舵取りに掛かっています。

来たるトランプ外交の中東地域を経由した日本への影響
中東地域の全般において、情勢の安定性が損なわれてしまうと、日本は、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)など中東諸国に主要エネルギーの輸入を依存していることもあり、影響を免れないでしょう。特に、エネルギーの調達価格は、日本経済に影響を与えやすく、国民生活にまで影響が及ぶのは必至とみられます。
トランプ次期政権といえば、米軍駐留費用や貿易不均衡など、二国間問題の枠組みで語られます。しかし、二国間ではなく、中東地域を経由して日本経済に与える余地があることも想定しておくべきでしょう。

以 上



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