イスラエルがイランに送り続けるメッセージの意味とは?(SPY-NE003)
報道概要(外部ソースからの引用)
各種報道によれば、9月17日、中東レバノンで、小型通信器に仕掛けられたとみられる爆発物が爆発し、少なくとも8人が死亡、3000人以上が負傷した。同通信器は、首都ベイルート近郊で活動するシーア派民兵組織ヒズボラのメンバーによって主に使用されており、負傷者の大半は同メンバーであったとみられている。
9月25日、ヒズボラは、イスラエル国内に向けて多数のミサイルを発射し、その一部は、最大都市テルアビブ周辺にまで着弾したとされる。ヒズボラが放ったミサイルの一部がイスラエル中部に位置するテルアビブにまで到達したのは異例とみられる。
9月28日、イスラエル軍(IDF)は、ヒズボラの指導者ナスララ師を殺害した旨発表した。
中東カタールの衛星メディア・アルジャジーラの同日付け報道によれば、ヒズボラは同日付け声明の中で、ナスララ師の死亡を確認した旨発表した。
10月1日、IDFは、イランからイスラエル国内に対して、180発以上のミサイルが発射された旨発表した。その一部は、テルアビブを含む同国中部や南部に着弾した模様。
同日、IDFは、レバノンにおいて限定的な地上戦を開始した旨発表した。
(以下外部リンクとなります)
イスラエル中東情勢の急変
昨年10月7日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは、ガザ地区内からイスラエル国内に配下戦闘員を送り込み、多数の地元住民らを殺傷するとともに、その一部を誘拐しました。
折しもイスラエル国内は当時、「シェミニアツェレット」というユダヤ教の祝日に当たり、ガザ地区に近い場所では夜通しのダンスパーティーなどが行われていました。そこにいた若者たちが殺害されたり、誘拐される様子がSNS上で拡散され、国際社会に衝撃を与えました。
この日を境に、直ちにイスラエルは戦時体制を構築すると、ハマスに対する軍事作戦に着手しました。イスラエル軍(IDF)は、ハマス壊滅を目指して空爆を繰り返すとともに、2014年以来となるガザ地区への地上戦を展開しました。

イスラム原理主義組織ハマスとは?
イスラム原理主義組織と知られるハマス(Hamas)は、1964年にパレスチナ問題に取り組む国際運動として設立されたパレスチナ解放機構(PLO)から事実上分裂した一派です。PLOの対イスラエル和平路線を批判し、飽くまでも武力によるイスラエル打倒を主張しています。
その結果、パレスチナ自治区は、PLOが統治するヨルダン川西岸地区とハマスが実効支配するガザ地区の二つに分裂しています。ヨルダン川西岸地区は、イスラエル国内で人の移動が禁止されていません。一方、ガザ地区については、イスラエル国内との境界線に沿って約65キロに上るフェンスやバリケードが設置され、人の移動が禁止されています。
ハマスは、2006年以降、こうして孤立したガザ地区において、200万人以上の住民を統治し、軍事活動を継続しています。そして、2006年以降、過去5度にわたってイスラエルへの軍事攻撃を行っており、直近では2021年におけるハマスのロケット弾攻撃がありました。こうした中、昨年10月に陸上侵攻を含む軍事攻撃が発生しました。

二つのパレスチナ自治区と二つのパレスチナ自治組織
パレスチナ解放運動は、国際的にPLOが代表組織と認識されており、1993年のオスロ合意において、PLOとイスラエルが国交樹立して以来、国際社会はPLOをパレスチナ問題の交渉窓口としてきました。ヨルダン川西岸地区の首都ラマッラーは、各国の外交代表部や国際機関が拠点を置いています。
一方、ハマスは、イスラエルに対する軍事活動を継続することから、国際社会から「テロ組織」に指定され、公式な関係が樹立されていません。ハマスと公式に関係を結ぶのは、カタール、トルコ、イラン、シリアといった一部の国に過ぎず、国際的に孤立しています。
和平融和路線のPLOと軍事強硬路線のハマスは、いずれもパレスチナ問題の事実上の当事者でありながらも、活動方針が真逆となっており、双方の和解は困難となっています。

ハマスをめぐる国際的な敵味方関係
ハマスは、壁に囲まれたガザ地区において、政治的にも軍事的にも物質的にもあらゆる面で国際的に孤立した勢力です。故に、外部からの支援無くしては存立できない状況にあります。
そんなハマスを主に支援するのは、カタール、イラン、トルコ及びシリアの4か国です。ハマス支援に当たっては、中東地域及びその周辺における各国の敵味方関係が反映されています。

ハマスを支援することでライバルを出し抜こうとするカタール
カタールは元々、アラビア半島から飛び出た半島に位置する小国であり、砂漠に覆われた土地柄もあって豊かとは言えない経済状況にありました。しかし、1980年代からペルシャ湾での資源開発を本格化させ、天然ガス田を発見すると、1990年代には、世界最大の液化天然ガスの輸出国となりました。さらに、石油開発にも成功すると、経済力を飛躍的に向上させ、国際的な地位を高めました。
しかし、当時は、中東地域の国際関係は、世界最大の産油国サウジアラビアと、産油国としてカタールよりも先行する隣国のアラブ首長国連邦(UAE)がすでに中心的な存在でした。
カタールは2000年代に入って、後発組として国際的な影響力を及ぼし得る部分を探しました。2006年にハマスがガザ地区を実効支配し始めたことで、サウジアラビアとUAEがハマスと距離を取ったことに着目しました。カタールは、サウジアラビアとUAEをライバル視しており、両国に対抗するため、ハマスを支持する立場を明確にしました。

終始イスラエルを敵視して反イスラエル勢力を支援するイラン
イランは、1979年に革命政府が王政を追放して以来、イスラエルを「イスラムの敵」として終始敵視してきました。ただ、イランは、イスラム少数派であるシーア派を標榜しており、多数派のスンニ派を形成するサウジアラビア等の湾岸諸国とは、対イスラエル政策で連携できないという構造的な問題があります。このため、中東地域において自らの存在感を誇示するために、パレスチナ問題に関与するに当たっては、「代理者」を仕立て上げ、イスラエルを間接的に攻撃してきました。
この代理者の一つには、スンニ派イスラム原理主義組織ハマスがあります。ただ、イランはシーア派国家であり、あらゆるスンニ派の勢力とは犬猿の仲です。俗に「異端は異教より憎し」と言うように、イスラム教徒の間では、多数派のスンニ派が他宗教よりも少数派シーア派を忌み嫌うことがあります。したがって、イランがハマスを支持すること自体、宗派の面から矛盾しています。
しかし、イランとハマスは、反イスラエルを標榜することで共通しています。さらに、イランは、パレスチナ問題における二つの潮流である和平融和路線のPLOと軍事強硬路線のハマスのうち、イスラエルと交渉するPLOに不満を有しています。このため、そのPLOと対立してイスラエル妥当を目指すハマスの方がイランにとって利害が一致しやすいのです。
また、地政学的に言えば、イランが位置する中東地域では、パレスチナ問題が最大の国際的な懸案事項となっており、パレスチナ問題の進展次第ではイランも何らかの影響を受ける可能性が否定できません。このため、イランとしては、パレスチナ問題に関与する余地を残す必要があり、イスラム政界がスンニ派で占められている以上、宗派を超えて関係性を構築するほかありません。
故に、イランは、宗派違いでありながらも、反イスラエル活動を強行するハマスを支持しているとみられます。

パレスチナ問題の「提起者」としてのハマスという存在
カタールやイランなどハマスを支援する国々は、ハマスが軍事行動を起こすことで、パレスチナ問題における自分たちの影響力を誇示し、これを以て中東地域における国際的な立場を強化しようと意図しています。
パレスチナ問題は、第二次世界大戦の終了後間もなく発生し、中東地域の全体を巻き込む戦争にまで発展しています。最後の中東戦争は現時点で1973年ですが、イスラエルをめぐる武力衝突や紛争は断続的に発生しています。特に、ハマスが、イスラエル国内に向けて無数のロケット弾を発射し、イスラエルが空爆と陸上戦で応じるというやり取りが事実上パターン化しています。
こうして一定のパターンが定着すると、ハマスによる軍事行動は、その支持国による意図が働くことで生じるという図式ともなります。カタールやイランなどハマス支持国は、ハマスに資金や武器を供与することで、ハマスを軍事行動がいつでも可能な状況に置いています。そもそもガザ地区とイスラエルの境界線は、イスラエルによって人や物資の出入りが監視されています。2000年代以降は、ガザ地区を囲むように長大な壁やフェンスが設置され、事実上、陸の孤島となっています。
それにもかかわらず、ガザ地区からは無数のロケット弾が発射されていることもあり、これはハマス支持国から武器が供与されている証拠とみられます。つまり、ハマス支持国は、パレスチナ問題の国際交渉が解決の方向に向かったり、中東地域でイスラエルとの融和的な動きが見受けられる場合、ハマスを動かして、パレスチナ問題に対する反対の姿勢を訴えることが可能です。ハマスは、パレスチナ問題を通じて中東地域に影響力を保持したい支持国にとって、ある種の調整弁として利用できるのです。

近年になってイスラエルとの国交樹立や宥和政策が続いた中東地域
こうした中、2020年代に入って、中東地域及びその周辺では、イスラエルと関係正常化したり、イスラエルへの融和政策へ転じることで、パレスチナ問題における自分たちの影響力を高めようとする動きがあります。
2020年8月にアラブ首長国連邦(UAE)がイスラエルと国交を樹立したことを皮切りに、バーレーン、モロッコ及びスーダンが相次ぎ関係正常化しました。中東地域の大国であるサウジアラビアは、関係正常化に至っていないものの、2022年7月には、イスラエル民間航空機による領内通過を認めるなど、融和的な政策に転じています。
こうした動きの背景には、反イスラエルの盟主に近いイランの影響力を封じ込めようとする米国の意図があるとみられます。イスラエル近隣諸国で、イスラエルと関係断絶したまま融和的な動きを見せないのは、国境を接するシリア及びレバノン、そしてイラク、イラン、クウェート、カタール及びイエメンとなっています。
この中で、反イスラエルを標榜してハマスを支援するカタール、イラン及びシリアにとっては、パレスチナ問題を通じた影響力の低下が指摘されています。

イスラエル融和の流れの中で発生したハマスによるイスラエル国内への軍事侵攻
こうした中、2023年10月、ハマスは、ガザ地区を囲む壁やフェンスを超えて、数千人規模の配下戦闘員をイスラエル国内へ侵入させ、数千発のロケット弾を発射する事案が発生しました。イスラエルに対して動員された攻撃規模は、過去4度の中東戦争を除けば、平時における紛争として過去最大とみられます。
これは、半ばパターン化されてきたハマスの攻撃規模とは比較になりません。この結果、イスラエルは、2014年以来となるガザ地区への地上作戦を展開するとともに、隣国レバノンにおいても、シーア派民兵組織ヒズボラを標的として2006年以来となる地上作戦を開始しています。イスラエルの軍事的な対応もまた、直近数十年で最大規模となりました。
こうして反イスラエルをめぐる過去に例を見ないレベルの国際的な紛争が発生しましたが、これは、カタールやイランをはじめとしたハマス支援国にとっては、有利に働いた一面があります。中東地域では、イスラエルとの融和的な動きが続いており、カタールやイランなど反イスラエル陣営に対する親イスラエル陣営が形成されつつありました。特に、パレスチナ問題をめぐる共通理念の一つに反イスラエルがあるため、イスラエルとの融和が本格化すれば、パレスチナ問題の緊張緩和や解決が進展します。
これは、パレスチナ問題を通じて中東地域の全体に影響を及ぼそうとすることが困難になることを意味します。逆に、パレスチナ問題が深刻化して、国際社会の関心と懸念が集まれば集まるほど、自らの影響力を誇示することができます。カタールやイランをはじめとしたハマス支援国は、ハマスを起点としたパレスチナ問題への関与を意図しており、パレスチナ問題が深刻化した方が有利となるはずです。

イスラエル融和はハマス自身にとっても逆風
ハマス自身にとっても、パレスチナ問題が形骸化すれば、自分たちの存在や主張が国際社会から軽視されてしまいかねません。最終的には、カタールやイランをはじめとした支援国から、パレスチナ問題は関与する必要性が低下したとして、支援を縮小又は停止されるおそれもあります。
つまり、近年、ハマスとその支援国は、パレスチナ問題を通じて、イスラエルとの対立構図を明確にする必要に迫られていたと言えます。したがって、ハマスとその支援国は、パレスチナ問題を深刻化させることで思惑が一致しており、昨年10月に、こうした思惑が具現化したと考えられます。
反イスラエルの機運を高めようとするイランの思惑
イランは、パレスチナ問題における反イスラエルの筆頭格に位置しており、イスラエルによる軍行動の拡大は、国際社会の関心と懸念を呼ぶという意味で歓迎できるでしょう。イランは、ハマスを自らの代理人の一人として、パレスチナ問題におけるある種の「窓口」としています。その他にも、イランには、同じ類の代理人がイスラエルの隣国レバノンに存在しています。それは、シーア派民兵組織として知られるヒズボラです。
ハマスの軍事行動によって、パレスチナ問題の深刻化が口火を切ったわけですが、その口火を絶やさないように、むしろ戦果を拡大させるためには、ヒズボラによる軍事行動がイランにとって望ましいのでしょう。
ハマスの次に行動を起こしたのは、このヒズボラでした。

中東地域のパレスチナ問題は歴史的に根深くて、国家間の利害対立が激しい。こうした構図は、中東地域から遠く離れた日本にとっては、あまり馴染みのないものになりがちだね。ただ、日本は、主にサウジアラビアとUAEからの原油とガスに依存しており、紛争拡大の影響は免れないだろう。

紛争が拡大すれば、日本への石油とガスの輸出が滞るのは、1973年の石油ショックで証明されていますからね・・・
以 上



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