2025年05月:中国の歴史歪曲に向けたスパイ工作活動:中国の「歴史改変戦略」とスパイ外交──情報戦が世界を動かす時代に

スパイニュース解説記事

中国の「歴史改変戦略」とスパイ外交──情報戦が世界を動かす時代に(SPY-NE032)

米国が中国をパンデミック発信地と強調するサイト開設

 2025年4月18日、米国政府は、新型コロナウイルスの発生源が中国・武漢のウイルス研究所であるとする特設ホームページを公開しました。サイトのトップには、「研究所からの流出 COVID19真の起源」というタイトルとともに、ドナルド・トランプ大統領の写真が掲げられています。

Lab Leak: The True Origins of Covid-19
THE ORIGIN “The Proximal Origin of SARS-CoV-2” publication — which was used repeatedly by public health officials and th...

 このホームページでは、世界保健機関(WHO)に対しても厳しい批判が展開されています。具体的には、「WHOは中国共産党の圧力に屈し、国際的な義務よりも中国の政治的利益を優先した」と指摘し、WHOが推進する新たな国際枠組み「パンデミック条約」についても、「米国の主権や利益を損なう可能性がある」と警鐘を鳴らしています。

 こうした動きに先立つ2025年1月には、米国中央情報局(CIA)が、COVID19の起源に関する見解を発表しました。「自然発生よりも、研究所からの流出による発生の可能性が高い」と明言し、従来よりも明確に“武漢研究所起源説”を支持する立場を取りました。

 このように、米国は情報発信を通じて、COVID19をめぐる国際的な世論形成に影響を与えようとしており、中国との情報戦の様相を一層強めています

パンデミックの懸念終了宣言から2年以上が経過

 米国が2025年4月になって新たに、武漢研究所起源説を強調するホームページを開設した背景には、いくつかの要因があると考えられます。

 そもそも、新型コロナウイルスに関するパンデミックは、WHOが2023年5月、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)の終了を宣言したことで、国際的には収束に向かっていると見なされていました。

 しかし、その終了宣言から2年近くが経過した中で、米国は改めて「パンデミックの起源」に注目を集める動きを見せました。これは単なる過去の検証ではなく、現在進行形の問題として、「情報の透明性」や「責任の所在」について再び国際的な議論を喚起しようとする意図があると見られます。

 こうした米国の対応の背景には、中国政府の発言や行動に対する警戒感が強く影響しています。特に、パンデミックの発生源に関する情報の開示をめぐっては、中国が一貫して研究所起源説を否定し、むしろ他国に責任を転嫁するような発言を続けてきたことが、米国側の反発を招いています。

 つまり、米国がこのタイミングで強いメッセージを発信したのは、過去の問題を蒸し返すためではなく、中国との「情報戦」や「責任追及」において主導権を握るための戦略的な一手と考えられるのです。

パンデミック発生直後から主張し続ける中国の国外由来説

 中国は、2020年1月にWHOが新型コロナウイルスに対して「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)を宣言した直後から、ウイルスの発生源が国外にある可能性を示唆する主張を展開し始めました。

 その代表的な例として、2020年3月、中国外務省の趙立堅報道官が自身のSNS(ツイッター)上で、中国・武漢で同年10月に開催された「ミリタリーワールドゲームズ」(国際軍人スポーツ大会)に参加した米軍兵士が、ウイルスを持ち込んだ可能性があると投稿しました。この投稿に対して、米国政府は、即座に強い抗議を表明し、同報道官は翌4月、「個人の意見だった」と釈明し、事実上この主張を撤回する形となりました。

 しかし、その後も中国は発生源に関する別の説を提起し続けました。2021年には、中国政府や国営メディアが、ウイルスは中国・武漢ではなく、米国メリーランド州フレデリックにある米陸軍の生物医学研究施設「フォート・デトリック」で発生した可能性があると主張。中国外交部は、WHOに対し、この施設に対する調査を公式に要求しました。

 この「フォート・デトリック説」は、その後も中国側によって繰り返し言及されており、2025年現在においても、中国政府はこの主張を明確に撤回していません。

パンデミック発信地の歴史改変を試みる中国の意図

 中国政府は、2025年4月にトランプ政権が「COVID19の武漢研究所起源説」を強調するホームページを公開した直後に、白書を発表しました。ウイルスの起源が米国にある可能性を改めて指摘し、強く反発しました。

 この白書では、「WHOなど国際機関による調査を通じて、武漢の研究所からのウイルス漏えいの可能性はすでに排除されている」と主張しました。米国側がパンデミックの発生起源を政治問題化していると非難し、国際社会における米国の行動は「責任転嫁であり、不誠実だ」と強く批判しています。

 中国の一連の主張は、国内で最初に確認された感染例が自然発生によるものであるという見解から距離を置き、あたかもウイルスが米国国内で人為的に発生したかのような印象を与える内容となっています。

 しかし、客観的な経緯として、2019年12月、中国・武漢市において原因不明の肺炎が発生したと報じられ、翌2020年1月には、この疾患が新型コロナウイルスによるものであると中国当局が発表しました。こうした事実を踏まえると、中国政府の主張には、発生時期や場所に関する明確な矛盾が含まれていると指摘せざるを得ません。

中国の“勝利”が突然、中止発表に?切手発行の裏に潜む戦略

 「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)が宣言されて、パンデミックが現実のものとなりつつある2020年4月、中国政府は新型コロナウイルスの感染拡大を「国民と政府が一体となって封じ込めた成果」と位置づけ、その「勝利」を記念する切手を発行すると発表しました。

 当初の発表によると、この記念切手には、ウイルスと闘う武漢市民の姿や武漢を象徴する建物が描かれる予定とされました。しかし、発表からわずか数日後、中国当局は突然この発行を中止すると発表します。その後、発行は約1か月延期され、最終的に切手は発行されましたが、当初予定されていた「武漢色」の強いデザインは変更され、より抽象的で全国的な団結を示すものへと修正されました。

 中国政府はなぜ、自ら「勝利」を強調する機会を発表しては、直ちに取り消し、それでもデザインを修正した発行するという紆余曲折を経たのでしょうか。

 この経緯を、パンデミックの発生起源を国外に求めるこれまでの主張と照らし合わせると、中国政府が事実の印象操作を行い、歴史そのものを「改変」しようとしている意図が見えてくると言えるでしょう。

中国の歴史改変が続く国際的な領土問題の歴史的事実

 中国による歴史の改変は、決して最近始まったものではありません。現在も中国は、台湾、南シナ海(南沙諸島)そして尖閣諸島をめぐって領有権を主張し、これらの地域で継続的に領土問題を引き起こしています。

 例えば、台湾本島について、中国は一貫して「中国の不可分の領土」であり、「内政問題にすぎない」との立場を崩していません。

 しかし、歴史を振り返ると、台湾本島は、現在の中華人民共和国(建国は1949年)の支配下に入ったことは一度もありません。17世紀末、当時の清朝によって支配されるようになりましたが、1895年の日清戦争の結果、日本に割譲され、その後50年間にわたり日本の植民地となりました。

 1945年の日本敗戦後、戦勝国の一員であった中華民国が台湾を接収し、その後、1949年の国共内戦により、国民党政府は台湾本島に移転し、「中華民国」は台湾に存続する形となります。

 一方、大陸では共産党が「中華人民共和国」を建国されましたが、これ以降も、現在に至るまで台湾本島は、中華民国の統治下にあります。

 また、南シナ海の南沙諸島についても、中国は「歴史的に中国の領土」であると主張しています。

 これに対し、2016年、オランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所(PCA)は、「中国が南シナ海を歴史的かつ独占的に支配してきた証拠はない」とする裁定を下しました。つまり、中国の領有権主張は国際法上、正当なものとは認められていないのです。

 それでもなお中国は、繰り返し「中国の不可分の領土」という言葉を用いて正当性を訴えています。こうしたレトリックの背後には、歴史的事実の歪曲や改変という重大な問題が潜んでおり、国際社会としても看過できない課題であると言えるでしょう。

日本と領有をめぐって対立する尖閣諸島

 中国は、日本との間でも、沖縄本島から西方約400キロに位置する石垣市の尖閣諸島を「中国の不可分の領土」と主張しています。

 しかし、1953年1月8日付の中国共産党機関紙『人民日報』では、尖閣諸島を「琉球群島に属する」と記し、日本の一部であることを暗に認めるような記述がなされています。また、1960年代初頭の中国地図出版社が発行した地図でも、尖閣諸島は日本の一部として表記され、「沖縄諸島に属す」との記載が見られました。つまり、1970年代以前は、中国国内においても尖閣諸島が日本領と認識されていたのです。

 歴史的に見ても、台湾と同様に、尖閣諸島が中華人民共和国(1949年建国)の統治下に入ったことは一度もありません。尖閣諸島は、1879年の明治政府による琉球処分により沖縄県が設置された後、1885年に日本政府が正式に編入を決定しました。

 当時、大陸を支配していた清朝と日本の間では、沖縄本島の帰属をめぐる意見の相違がありましたが、尖閣諸島に関しては、領有権をめぐる明確な争いは存在しませんでした。

 その後、1945年の日本敗戦を経て、尖閣諸島は米国の施政権下に置かれ、1972年の沖縄返還に伴い、日本の統治下へと戻りました。その前年の1971年から、中華人民共和国および台湾(中華民国)が領有権を主張し始め、現在まで対立が続いています。

戦争ではなく「スパイ活動」であらゆる歴史改変を図る

 これらの領土問題に対し、中国はどのような措置を講じているのでしょうか。現在の中華人民共和国は、1949年の建国以来、本格的な対外戦争の経験がありません。空母や戦闘機など最新の装備を保有してはいるものの、実戦における人的なノウハウや戦闘スキルに乏しいのが実情です。

 そこで注力しているのが、「スパイ活動」です。日本や米国をはじめとする西側諸国に対抗するための基本戦略として、「スパイ活動」を国家レベルで推進しています。たとえば、2014年の「反スパイ法」や、2017年の「国家情報法」などの法整備を通じて、中国国内のすべての国民を情報収集・協力の対象とする体制が構築されています。

 さらに外交分野でも、中国は、情報機関に所属するスパイを各国に派遣し、国際機関や外国政府の中枢に協力者を築く「スパイ外交工作」を展開しています。

歴史改変を実現させるためのアフリカにおける中国の「スパイ外交工作」

 例えば、中国は、アフリカ諸国の政府首脳部に対して「スパイ活動」を通じた協力者の獲得工作を積極的に行ってきました。

 一般的に、「協力者獲得工作」とは、スパイが敵対国や敵対組織の内部に、情報提供者つまり協力者を作る一連のプロセスを指します。しかし、中国の場合は、敵対勢力に限らず、友好国や友好組織の内部に対しても協力者を作ろうとする点に特徴があります。

 先ずは、スパイが外交官身分で、友好国の有力政治家に接触します。その際に次のような経済的・人的な便宜を提供することで、関係を深めていきます。

〇政治資金としての金品の提供

〇家族への住居や車両の無償提供

〇無償の中国旅行への招待

〇子弟を中国の大学へ無償で留学させる制度の斡旋 など

 このように、個人レベルでの対中感情を高めさせた上で、親中的な外交姿勢を取るよう誘導するのが狙いです。つまり、中国の「スパイ活動」は、単なる諜報活動にとどまらず、国際政治における心理的・構造的影響力の強化を目的とした戦略的行動といえるでしょう。

 2000年、中国は「中国・アフリカ協力フォーラム」(FOCAC)という枠組みを創設しましたが、これは「スパイ活動の隠れ蓑」としての側面も指摘されています。FOCACを通じて、アフリカ諸国の政治家個人との結びつきを利用し、経済援助という形で中国資金を注入する手法をとっています。

 その代表的な例が、アフリカ連合(AU)本部ビルの建設です。このビルの総工費約2億ドル(約300億円)を中国が全額負担し、2012年に完成しました。

 このAU本部ビルが所在するエチオピアは、中国が政府首脳部に深く入り込んでいる国として知られています。中でも、アビィ・アハメド・アリ首相は、その象徴的な存在です。

 アリ首相の政権下では、前述のAU本部ビルの建設に加え、首都アディスアベバと紅海に面するジブチ港を結ぶ約750キロの「アディスアベバ—ジブチ鉄道」も、中国の経済援助によって実現しました。

 こうした事例を見ると、中国を国内外で優遇する政策が進められている背景には、首相個人が中国に対して特別な協力関係を持っている可能性があると推察されます。アビィ・アハメド・アリ首相自身が、中国による「スパイ外交工作」の一環として、協力者として取り込まれた可能性は否定できません。

パンデミックをめぐる世界保健機関(WHO)事務総長への「スパイ外交工作」

 中国は、国家単位と個人単位の両面でエチオピアとの協力関係を深め、その延長線上で、エチオピア人のテドロス・アダノム氏を、世界保健機関(WHO)のトップに送り込みました。テドロス氏は、2017年に行われたWHO事務総長選挙で、英国の候補者を破って当選し、現在もその職にあります。この当選は、中国および中国を支持するアフリカ諸国が、国連総会を舞台に展開した積極的なロビー活動の成果とされています。

 テドロス氏は、元々エチオピアの保健省に勤務し、2005年から2012年までは保健相(日本の厚労相に相当)、2012年から2016年までは外相を務めてきました。こうした経歴の中で、中国との交渉や協議を通じて、個人的にも深い関係が築かれていったとみられています。

 背景には、2000年以降、中国がエチオピアに、政策銀行を通じて120億ドル以上を融資し、同国の対外債務の3分の1以上を占めるに至った事実があります。これは、エチオピアのGDPの約29%に相当し、経済的な依存関係の深さを物語っています。こうした中で、テドロス氏が中国と個人的な関係を築き、中国による「スパイ活動」によって協力者として取り込まれた可能性も指摘されています。

 まさにその関係性が、後のWHOトップ就任という形で、中国にとって大きな成果をあげ、「スパイ外交工作」が奏功した事例として位置づけられるのです。

パンデミック発生におけるWHOの中国寄り政策

 WHOは、中国の影響下にある人物に主導される中、パンデミックの発生初期から、中国寄りの対応が目立ちました。

 2020年1月、WHOは新型コロナウイルスの流行を受け、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)を宣言しました。その際、テドロス事務総長は「この宣言は中国への不信感を示すものではない」と繰り返し強調し、中国政府への配慮をあらわにしました。

 さらに1月末には、テドロス氏が北京を訪問して、習近平国家主席と会談しました。その後の記者会見では、「中国政府の特別な措置によって国外で死者が出ていない。中国の対応は感謝と尊敬に値する」と、異例とも言えるほど高い評価を口にしました。これらに対して、WHO内部の側近からも「発言のトーンを落とすべきだ」との進言がありましたが、テドロス氏は「中国の協力を確保するため」として称賛をやめませんでした。

 こうした状況に、米国も懸念を強めます。2020年7月には、ポンペオ米国国務長官が「テドロス氏は中国に買収されている」と述べ、「確かな機密情報がある」と明言。内容は明かされませんでしたが、テドロス氏が中国の「スパイ活動」により協力者とされた可能性を示唆する発言でした。

 その後、2021年には、新型コロナウイルスの起源を調査するため、WHOの調査団が中国・武漢を訪れました。しかし、この調査は、中国側が主導する国内調査の結果に強く依拠しており、中国国内を起源とする説を否定する内容に終始しました。中国が主張する「国外起源説」を後押しするものであり、中国にとって都合のよい「歴史改変」の一環として、繰り返し利用されることとなったのです。

背景には数千年規模で実現が進められる「中華思想」

 中国にとって歴史とは、「正当性を生み出す道具」であり、領土主張、外交の正当化、国内統制など、あらゆる政策の根拠として“過去”を活用しています。その根底にあるのが、「中華思想」と呼ばれる世界観です。「中華思想」とは、中国(中華)が世界の中心に位置し、その文化や思想が他国よりも優れているとする価値観・道徳秩序を意味します。

 この思想は「華夷秩序」という形で具体化され、東アジアにおける国際関係や朝貢体制、外交政策の土台となってきました。ここでは、周辺諸国を中国の「属国」と見なす枠組みが前提となっています。

 そのため、国際社会からは「歴史改変」と映るような主張であっても、中国にとっては歴史に基づく正当な主張として認識されてしまうのです。つまり、中国は過去を都合よく再解釈することで、現代の政策に「歴史的正当性」という形を与え、「中華思想」に基づく世界秩序の構築を目指しているのです。

勝利記念切手の中止及び修正が示した「中華思想」の野望と恐怖

 現在の日本人が「常識」だと信じている事実も、数百年後には書き換えられている可能性があります。例えば、近年話題となっている中国人の日本国内の土地購入が、今後も長期的かつ計画的に進められた場合、将来的に日本列島が事実上の「日本省」と見なされるようなシナリオも、あり得ないとは言い切れません。

 もしも「日本省」とされるような状況となれば、パンデミックの発信地として、日本が名指しされるような歴史改変すら起こり得ます。そのためには、あらゆる歴史資料の改ざんが行われることも十分に考えられます。

 実際、コロナ禍を記念した切手に描かれた武漢市の建物や市民のデザインが変更されており、日本国内に同様の建築物を再現した上で、「これは日本で発行されたものである」と主張するような工作も、あり得ない話ではありません。

 尖閣諸島についても、かつて中国国内で日本領と明記されていた史料に対して、後年「編集上の誤り」や「当時の一時的な認識に過ぎない」といった説明がなされるようになりました。これは、中国による歴史の再解釈と情報戦の一例といえるでしょう。

 こうした「数千年規模」で歴史認識をコントロールしようとする中華思想的な戦略に対して、日本が取りうる最も有効な手段は、「事実を記録して毅然と主張し続けること」にほかなりません。そのためには、日本自身もまた「スパイ活動」とされるような情報戦略──国際世論や情報空間を見据えた宣伝工作を本格的に考える必要があるのです。

 情報と歴史を制した者が、最終的な勝者になるという現実。日本は常に、「誰のスパイ活動に晒され、どのような情報を信じるか」、そして「自らどのように世界に発信していくか」という国家的課題に直面するでしょう。

以 上

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