国際諜報戦でスパイ活動を拡大させる中国の目的と実情とは?(SPY-NE019)
世界各国で相次ぐ中国スパイの摘発
報道によれば、フィリピンでは2024年11月に軍事基地を撮影するなどスパイ活動を行っていたとして、中国人5人が逮捕されました。2025年1月にも、軍事施設の情報を集めたとして、中国人3人が逮捕されました。
台湾では、2024年中に中国のスパイ活動に関与したとして64人が起訴されたことが明らかになりました。これは、同じく2021年に起訴された16人の4倍に当たり、過去10年間で最多とされます。
米国においても、機密性のある経済情報を中国情報機関のスパイに流したとして、2025年1月に、連邦準備委員会(FRB)元職員が逮捕されました。FRBとは、米国の中央銀行であり、日本で言えば日本銀行に当たる重要な政府機関です。
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いずれからも近年、中国のスパイ活動が世界的に拡大している印象を受けますが、中国はどのような目的を有して、どのような事情にあるのでしょうか。

東西冷戦中に日陰者であった中国
中国はそもそも、第二次世界大戦から間もない1949年に建国されたばかりです。「国共内戦」と呼ばれる内戦を経験し、台湾というもう一つの中国に分裂するなど、政治的な混乱に満ちていました。今日のような世界各国に影響を及ぼすにほど遠い状況です
中国共産党が一党支配する共産主義国家であり、東西冷戦下では、ソ連主導の東側陣営に所属し、米国や日本など西側陣営と対立しつつ、ソ連から援助を受けていました。その後、ソ連との関係悪化に伴い、経済開発が困難になるなど共産主義経済が低迷します。
中国は、第二次世界大戦の戦勝国であり、1960年代に核保有国の仲間入りを果たすなど、大戦後の国際秩序に影響力を及ぼしても不自然ではありません。しかし、同じ時期に、敗戦国である日本が高度経済成長を果たし、経済力で中国を追い抜き、アジア唯一の先進国として影響力を持ちました。
中国は、建国から約30年にわたって、国際的な存在感を十分にアピールできないまま、米ソ対立や日本の高度経済成長の陰に隠れがちでした。

東西冷戦後における中国の経済的な台頭
中国は、1970年代に入って、日本や米国などと国交正常化することで、経済開発の再開に漕ぎ着けました。今日の経済発展に向けた地盤が整備され、1979年から2001年までの実質GDP(国内総生産)の年間平均成長率は約9.4%に達しました。
これは、おおむね同時期の日本の実質GDPである約3.4%を大きく上回っています。2010年には、中国がGDPで日本を追い抜き、米国に次ぐ世界第二位となる経済躍進を果たします。
周辺国はおろか、世界各国の水準と比べても遜色のない経済力を備えることで、国際的な影響力を行使するようになります。今日の中国の原点がここから始まったと言って過言ではありません。

中国による軍事拡大路線の始まり
中国は、2000年代に入って、経済躍進により獲得した資本を軍事費に投入していきます。中国の軍事費は、2000年代当初では数百億ドル規模でしたが、2010年代では数千億ドル規模と10倍を上回るレベルで急増します。GDPのみならず、軍事費においても米国に次ぐ世界二位となりました。
軍事面でも米国を追随するように、原子力型の空母や潜水艦の開発を進めており、南シナ海や日本海など中国近辺のみならず、世界各国の外洋にまで行動可能な軍事装備の保有を目指しています。

「中華思想」による外交活動の世界的な展開
中国は、軍事面のみならず、外交面においても2013年に、「一帯一路」と呼ばれる広域経済圏の構想を発表し、世界各国への進出を開始しました。
「一帯一路」構想とは、中国を中心としてアジアや欧州に至るまでの地域に、統一的な経済圏を形成することを目指しています。「一帯」とは、中国から中央アジアを経由して欧州に至る陸路を指し、「一路」は、南シナ海からインド洋を経由して欧州に至る海路を指します。
「一帯一路」の対象国は、構想開始の段階で中国を含む65か国でしたが、次第に拡大されていき、2023年には149か国とされます。つまり、「一帯一路」をめぐる中国の外交活動が149か国にまで拡大されたと考えられ、外交面における影響力の増大がうかがわれます。

軍事と外交を支えるためのスパイ活動の本格化
国家の軍事活動と外交活動には、その準備段階として情報収集と工作活動が不可欠であるというのが、現代の国際社会における一般的な考え方です。
例えば、二度の世界大戦では、参戦国の軍事組織の中から「諜報機関」の原型となる組織が生まれました。世界各国で軍事活動するに当たっては事前に、敵軍の動きを察知するための情報収集や、敵軍を欺くための工作活動が必要とされたからです。
戦前の日本でも、陸軍内に「陸軍中野学校」という「諜報機関」の原型が設立され、米国や英国との戦争遂行に向けたスパイ活動が展開されました。こうした組織を大戦後に設立又は再編したのが、現在の「情報機関」と呼ばれている「諜報機関」です。
諜報機関から人員が外交機関つまり外務省に派遣され、世界各国の大使館を拠点として情報収集と工作活動が行われることも一般的です。外交活動に当たっては事前に、相手国の政策に関する情報の収集が不可欠であり、時には、相手国の政治家や役人を懐柔して自国への心証を良くするための工作活動も必要です。この結果、自国に有利な外交政策を他国に受け入れさせることができるようになります。
したがって、中国は、軍事面と外交面で世界全体に拡大していくためには、情報収集と工作活動から成る諜報活動が不可欠となるのが道理です。

中国を対象としたスパイ活動への恫喝的な抑制政策
中国は、「一帯一路」構想の発表から間もない2014年に、「反スパイ法」を制定しました。これは、スパイの名称が付けられているように「スパイ防止法」であり、国際社会、特に周辺国に対して、中国へのスパイ活動を容認しないという強いメッセージとみられます。
一般的に、「スパイ防止法」は、諜報活動における防御に当たり、自国のスパイを世界中に送り込むための下地を整えるために不可欠とされます。たとえ世界中で諜報活動を展開して情報を入手しても、それを他国のスパイ活動によって奪われたら元も子もないからです。
つまり、「スパイ防止法」の制定とは、今後、世界各国でスパイ活動を拡大させていくという国家意思の現れとも考えられます。

中国国内で相次ぐ外国人のスパイ拘束事案
2014年に「反スパイ法」が施行されると、中国国内では、スパイ容疑で拘束される外国人が相次ぎます。その中には、日本人も含まれており、2023年までの10年間で少なくとも17人がスパイ容疑で拘束されました。近年では、2023年に、アステラス製薬の日本人社員1人がスパイ容疑で拘束され、2025年に入っても身柄解放されていません。
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そのほか、少なくとも韓国人1人、オーストラリア人2人、スウェーデン人1人などがスパイ容疑で拘束されたとみられます。ただ、日本人に対する拘束件数が顕著であり、中国が日本のスパイ活動を特に警戒していることがうかがわれます。
2023年には、「スパイ行為」の定義や摘発の権限が拡大され、罰則が強化されるなど改正されました。中国は、従前よりも「スパイ行為」に対する抑制意思を強めています。

スパイ活動と反スパイ活動の背景に戦争準備
「反スパイ法」の施行以降、世界各地で中国のスパイ活動が摘発されるようになり、2020年代になると、冒頭に挙げたように中国のスパイの摘発件数が急増します。特に、台湾とフィリピンにおける中国の「スパイ行為」の摘発事例が顕著であり、背景には、台湾の統一問題とフィリピンとの領土問題があるとみられます。
中国と台湾は、第二次世界大戦直後の内戦を経て二つに分裂し、「二つの中国」が併存したまま現在に至っています。中国は「一つの中国」という原則を掲げており、台湾を内政の一部と捉えて、その独立を認めない立場です。このため、中国が台湾を武力統一するおそれが拭えません。
フィリピンは、南沙諸島の領有をめぐって中国と対立しています。南沙諸島は、フィリピン領パラワン島から西へ約300キロに位置しており、諸島と言いながらも大半は、岩の塊に過ぎない岩礁です。ただ、地下資源や海洋資源が眠るとして、中国が領有を主張してフィリピンと対立しています。近年は、両国の沿岸警備隊の船舶が衝突するなど、対立が激化しています。

日本も、中国との間で尖閣諸島をめぐる領土問題が生じていますが、日本国内ではこれまで、中国の「スパイ行為」が摘発されたとの報道が確認されていません。領土問題で共通する台湾とフィリピンでは、中国のスパイが摘発されていることを考慮すれば、日本でも中国の「スパイ行為」が行われていても不自然ではありません。中国は、「反スパイ法」で日本人17人を拘束しており、これは、中国側のスパイが日本国内で拘束された際に、身柄交換できるよう備えているとも考えられます。

中国が、領土問題で対立する国々でスパイ活動を拡大させる背景には、軍事的な解決の模索があるかもしれません。
実際、2024年の台湾における摘発事例では、起訴された64人のうち、退役軍人15人と現役軍人28人が含まれており、台湾の国防分野が中国のスパイ活動の主目標であるとみられます。軍人の中にスパイを構築することで、軍事衝突が発生した際に、台湾軍の指揮命令系統を妨害させたり、台湾軍の軍事情報を中国へ提供させるなど、軍事的優位を確保することが期待できます。

中国による軍事活動の阻害要因となっている日本
中国が領土問題の軍事的解決を模索しているならば、日本に対しても同様のアプローチを採用しても不自然ではありません。
中国は、尖閣諸島に固執することには、軍事的にも外交的にも経済的にも重要な意味があります。そもそも日本という国家の存在自体が、中国が世界的な進出を果たすに当たって、阻害要因になっているためです。
中国は、「一帯一路」構想という中国から欧州へ至る巨大な経済圏の形成を目指しており、経済的な権益を握るために。世界各国で外交活動を活発化させています。ただ、外交交渉で経済的な権益を一旦入手しても、状況次第では他国の外交交渉によって奪われるおそれがあります。故に、入手した経済的な権益を保護するためには、世界各国で軍事的な影響力を及ぼす必要があります。他国に経済的な権益を奪われそうになれば、軍事的な圧力を掛けて阻止できるためです。
実際、米国は、世界各地で空母や潜水艦などを常時展開しており、自国の権益が脅かされると、いつでもどこでも軍事的な圧力を行使できています。

中国も米国に倣って軍事力を世界中に展開したいところですが、日本が存在する限り、現状では困難です。中国本土から空母や潜水艦などを日本海や東シナ海を経由して太平洋などの外洋へ展開させる場合、南沙諸島、台湾、尖閣諸島そして日本列島から成る一本の線が立ち塞がっているためです。
これは、日本においては、ありふれた東アジアの世界地図ですが、あくまでも日本から見た東アジアを示しているに過ぎません。地図の上に向かって北の方角となり、一見すると自然な見え方といえます。

しかし、この地図の角度を変えて、中国本土が地図の下に位置し、日本列島が地図の上に位置するようにして眺めてみてください。これは、中国から見た東アジアを示しています。

角度を変えた地図では、日本列島から尖閣諸島、台湾本島そして南沙諸島までが、中国本土に張り付くように東西に伸びているように見えませんか。中国軍が、日本海や東シナ海を経由して太平洋に出ようにも行く手を遮られてしまい、ユーラシア大陸に封じ込めているかが分かります。

今後も中国による対日スパイ活動が活発化するおそれ
中国が「一帯一路」という世界戦略を達成するためには、日本を何らかの形で実効支配する以外に手段がありません。日本を実効支配し、日本海や東シナ海から太平洋へ自由に通過できる経路を確保しなければ、どれほど巨大な軍事力を保有しても世界各地に展開できないためです。
ただ、日本を実効支配しようにも日本列島と沖縄には米軍が駐留しているため、軍事力を行使するのは現実的ではありません。日本の存在は、中国にとって厄介な目の上のたんこぶでしかなく、せめて尖閣諸島だけでも実効支配し、ここを太平洋に向けた抜け道として確保するほか選択肢がありません。
日本に対しては、米軍と自衛隊という軍事力にスパイ活動や工作活動を仕掛けて、可能な限り弱体化させ、中国本土から軍事的な圧力を掛けることで尖閣諸島を奪取することが基本戦略となります。つまり、中国による対日スパイ活動は、今後も活発化する一方でしょう。

以 上



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