スパイニュース解説・2024年9月(12月)ベラルーシ邦人拘束事案001:国際諜報戦の中で日本人が誰でもスパイ扱い!?(2024年9月アップデート)

スパイニュース解説記事

国際諜報戦における典型的なプロパガンダ(SPY-NE001)

報道概要(外部報道ソースからの引用)

 首相官邸の発表によれば、9月5日、林芳正官房長官は、定例記者会見で、ロシアと同盟関係にあるベラルーシで、日本人男性1人(50歳代)が7月9日に現地当局から拘束されていた旨明らかにした。
 各種報道によれば、ベラルーシ国営放送は、9月4日に放映した特別報道番組の中で、同国治安当局が諜報機関員(工作員)とみられる日本人男性1人を拘束したとされる。
 首相官邸の発表によれば、9月6日、林芳正官房長官は、定例記者会見で、同特別報道番組の放映について遺憾を示すとともに、政府として邦人保護の観点から支援を行う旨表明した。

(以下外部リンクとなります)

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主権国家のスパイ容疑による外国人拘束が意味することは?

 本年においても、海外で邦人がスパイ容疑で拘束されていたことが政府発表によって明らかになりました。本件発表に先立つ本年7月に東欧のベラルーシ国内で、邦人が現地当局から「諜報機関員」との疑いで身柄を拘束されていたとされます(以下:「本件拘束」と略す)。

 近年、海外、特に中国国内で邦人が拘束される事案が散見されます。直近では、昨年3月に中国の首都北京で、アステラス製薬の邦人社員1人が「反スパイ法」に抵触した疑いで拘束されています。2014年に中国で「反スパイ法」が施行されて以来、日本をはじめ各国の中国在留外国人が現地当局から身柄を拘束される事案が相次いでおり、中国国内における外国人の居住リスクが高まる中、昨年においても邦人拘束事案が再び発生しました。

 ただ、本件拘束は、日本の近隣諸国である中国ではなく、遠く離れた東欧のベラルーシであったことが注目されます。ベラルーシと日本は、外交関係や経済交流が盛んと言い切れず、例えば、2021年の貿易統計によれば、日本からベラルーシへの輸出は約26.3億円、ベラルーシから日本への輸入は 22.1億円に過ぎません。これは同じく、日本の対中国輸出が15兆0,820億円、日本の対中国輸入が17兆5,077億円であることに比べると、ベラルーシと中国では、日本にとって関係性の点で比較になりません

 それでは、中国ではなく、これほど日本と関係の薄いベラルーシで本件拘束が発生する可能性が存在するのでしょうか。

スパイ容疑の外国人拘束がもたらす影響とその利益を享受するのは誰か?

 それは、本件拘束をはじめとして、世界各地で外国人がスパイ容疑で拘束されることで、国際情勢にいかなる影響をもたらし、その結果、いかなる主体が利益を享受するのかを分析することで、スパイ容疑による拘束という報道の背景を垣間見ることができます。

 実は、外国人が現地当局に身柄拘束されることは珍しいことではなく、その拘束容疑は、現地法令に抵触した、又は反したという事例が一般的です。この場合の現地法令とは主に、窃盗や暴行など犯罪行為に刑事罰を課すという刑事事件であることが一般的であり、こうした場合、各国政府は、現地領事館という外交ルートを通じて、拘束された自国民の保護に向けた措置を講じます。

 しかし、外国人の拘束容疑が犯罪を取り締まる刑事法の類ではなく、スパイ活動を取り締まる類の法令ともなると話は異なります。国際慣習上、主権国家が自国の権限が及ばない領域でスパイ活動を行うことは、現地政府の主権侵害に当たると認識されています。つまり、外国人を敢えて「スパイ容疑」として拘束することは、現地政府が、当該外国人の所属政府に対し、主権侵害という重大な敵対行為を働いたとの政治的メッセージを送りつけることを意味します。

スパイ容疑の外国人拘束がもたらす影響とその利益を享受するのは誰か?

 世界中では、様々な前提に基づいて各国との外交関係が築かれており、外交関係は時には良好に、時には悪化しつつ、時には断交も辞さないという変化の途上にあります。こうした中で、スパイ容疑による拘束という政治的メッセージを送りつけることは、外交関係を悪化させる意思を示したものに他なりません。故に、外交関係は悪化し、外交問題の一つとして、当該国の間で黙殺できない懸念事項として根付いていきます。

 こうして懸念事項が生じるにも拘らず、敢えてスパイ容疑による拘束という政治的メッセージを突きつける背景には、外交関係の悪化を織り込んだとしても、それ以上の国益が期待できるとの判断があります。つまり、ベラルーシは、本件拘束によって対日関係を悪化させても、それ以上に利益が見込めると判断したのでしょう。こうした判断が成立するのであれば、本件拘束が生じる可能性はあります。

 それでは、その利益とはどのようなものでしょうか。

スパイ容疑の外国人拘束は国際的に日常茶飯事

 実は、スパイ容疑による外国人の拘束事案は、歴史的に見ても、必ずしも珍しいことではありません。近代以前の諜報活動においては、近代ほど国際関係が発展しておらず、国家主権という概念も不在であるため、封建主義国家が別の封建主義国家にスパイを送り込み、そのスパイが拘束される事案は限定的であったとみられます。

 近代に入って、世界各地で主権国家が成立し、世界大戦が生じるほどに国際関係が進展すると、国家の垣根を越えたスパイ活動が次第に盛んになりました。そして、スパイ活動を専門に取り扱う近代組織として諜報機関が相次いで誕生します。日本においても、帝政ロシア下で明石元二郎(あかしもとじろう)大佐が本格的な対外スパイ活動に従事し、後に、明石大佐のスパイ活動を手本にした初めての対外諜報機関「陸軍中野学校」が創設されます。

 こうして近代に入って、国際諜報戦が拡大及び激化しており、これに伴って、外国人のスパイ容疑による身柄拘束が顕著になったことが窺われます。二度の世界大戦が行われる頃には、欧州から米国、オセアニア、アジア、中東に至るまで近代諜報機関が次々と設立されました。もはや主権国家にとって、諜報機関は不可欠といえる存在となっています。主権国家の権限の及ばない領域におけるスパイ活動はもはや、ある種の国際慣例ともなり、何かしらのスパイ活動が行われていない領域などほとんど存在しなくなりました

 同時に、スパイ容疑による拘束もまた、国際的に日常茶飯事ともなり、今日に至っています。

スパイ容疑の外国人拘束はある種の国際儀礼の一つ

 日常茶飯事ともなれば、主権国家が自国領域内で外国人を敢えて「スパイ容疑」で拘束することは、ある種の国際儀礼ともなります。国際儀礼とは本来、国際関係において国家や外交官、国際機関が互いに尊重し、礼儀正しく行動するための慣習や規範です。そこで、スパイ容疑による拘束との政治的メッセージを当該国に敢えて突きつけることは、「今までは我が国における貴国のスパイ活動を黙認していましたが、これ以上は認められません。直ちにスパイ活動を止めないと双方の外交関係に支障が生じますが、それでも構いませんか?双方の『良好な関係』を維持するためにも、貴国の特段の配慮があれば幸いです」などと、関係維持に向けた一種の誠意と良心の表明ともなり得ます。

 故に、スパイ容疑による拘束は、駆け引きを行うための外交手段の一つともなり、これを通じて利益を得ることも可能という実情があります。

元スパイ・クマさん
元スパイ・クマさん

一言に「日本人がスパイとして拘束された」と言っても、それだけでは背景事情が分からない。「スパイ」という言葉が報道上で出てきたからといえども、実は、外交上のカードの一つであったりするかもしれない。スパイに関連するニュースには、慎重に受け止めた方がよい。

新人スパイくん
新人スパイくん

「スパイ」なんて非日常的なワードが出てくると、そんなことが本当に行われているんだ、って感じで驚いちゃいますからね。

拘束スパイの身柄交換という外交通例

 スパイ容疑による拘束は、他の外交手段ともなり得ます。スパイ活動が国際慣習ともなると、各国は、他国で拘束された自国スパイと、自国内で拘束した他国スパイの身柄を交換するというケースが増えてきました。報道を通じて公になる、又はならないにせよ、近代以降の国際諜報戦では、スパイ容疑による拘束が日常茶飯事となり、各国はこうして身柄拘束した外国人スパイを常に一定数抱えています。スパイ活動は、一般的に極刑に処するとの法令が世界各地で見受けられますが、これが必ずしも文面通りに運用されているとは限りません。

 なぜなら、拘束した他国スパイは、他国で拘束された自国スパイとの間で身柄交換が成立する余地があるからです。むしろ、文面通りに拘束した他国スパイを極刑に処すると、今度は逆に、他国で拘束された自国スパイが極刑に処されてしまいます。これは、外交上の不文律である「相互主義」に基づいた措置であり、相互主義は「外交・通商関係において、相手国の自国に対する待遇と同等の待遇を与えようとすること」とされます。要するに「やられたら、同じことをやり返す」という古代ハンムラビ法典の「目には目を、歯には歯を」という同害復讐に近いです。

 こうした同害復讐が成立する国際社会では、他国スパイを極刑に処することは、自国スパイの極刑が執行されても構わないという政治的メッセージにすらなり得るわけです。逆に、拘束スパイに極刑を執行せずに有期刑に処することは、拘束された自国スパイの身柄交換に応じる用意があるとの政治的メッセージになります。

公表されるスパイ容疑の外国人拘束事案と公表されないスパイ容疑の外国人拘束事案

 そもそも、スパイが拘束されたこと自体が、マスメディアを通じて必ずしも公表されるとは限りません。公表されていないスパイの拘束事案も少なからず存在しているとみられます。

 例えば、中国では、2014年に「反スパイ法」が施行されて以来、本年まで少なくとも17人の邦人がスパイ容疑で拘束されましたが、直近10年間で平均すると毎年1.7人が拘束されたことになります。日本には、専門性を帯びていないとはいえ、諜報活動を国内外で展開する政府機関が複数存在しています。

 故に、日本にとって、近隣諸国の中で情報関心が最も高い中国には、日本から比較的数多くの諜報員や協力者が送り込まれている可能性があります。それにもかかわらず、毎年1.7人というのは、日本の中国における諜報規模から鑑みれば、人数的に少なすぎると言って差し支えありません。つまり、中国で拘束された邦人は17人にとどまると限らず、公表されていない邦人の拘束事案が存在する可能性は否定できません。

(以下外部リンクとなります)

エラー|NHK NEWS WEB

公開されるスパイ容疑の外国人拘束事案

 それでは、スパイ容疑による拘束事案が公表される場合、それはどのようなケースと考えられるでしょうか。

 主権国家が、他国スパイの拘束事案を公表することは、その所属国に対し、国際社会を通じてその不正を広範に広め、国際的に孤立させようとの政治的意図がある場合です。その場合、拘束されたスパイがどの国に所属するかを示す証拠を公開し、国際社会から一定程度の同意や共感を得られるよう意図します。そして、同盟国や友好国から支持を示す声明が発表されるよう根回しすることで、拘束スパイの所属国に国際的な非難が集まるよう仕向けることも可能です。要するに、「あの国は悪いことをしているから、みんな気をつけて」ということです。これは、国際外交において、自らが有利になり、スパイを送り込んでくる他国を不利にしようとする外交政策の一つともなります。

 同時に、拘束スパイの所属国のみならず、国際社会の全体に対し、「我が国でのあらゆるスパイ活動を絶対認めないぞ」との恫喝に近い政治的メッセージを発することにもなります。これは、外交政策というよりも、自国における他国のスパイ活動を水際で防ぐという防諜政策ともなります。

 スパイ容疑による拘束が公表されることは、主権国家の政治的な強硬姿勢が際立つ結果となるわけです(以下リスト参照)。

非公表とされるスパイ容疑の外国人拘束事案

 一方、スパイ容疑による拘束事案が公表されない場合、それはどのようなケースと考えられるでしょうか。

 これは、主権国家が、主権侵害に当たるスパイ活動を敢えて非公表とすることで、拘束されたスパイの所属国に対し、二国間における外交上の交渉材料として利用する政治的意図がある場合です。これは、敢えて公表しないことで、拘束されたスパイの所属国に対して恩を着せるとともに、外交上の譲歩を引き出すことが期待されるからです。要するに「大ごとに揉めるつもりはないから、こちらの言うことを聞け」という政治的メッセージです。

 さらに、拘束されたスパイの所属国に対し、別の外交案件で対立や懸念が生じている場合、交換条件として提示することも可能であり、スパイを送り込んできたという弱みにつけ込んで、外交上で有利な立場を確保するという外交政策ともなります。要するに、「悪いことをしたから、その分こちらの言い分を受け入れろ」ということです。

 ただ、スパイ容疑による拘束を非公表とすることで、国際社会を巻き込んだ「我が国でのスパイ活動をすればどうなるか分かっているな」という恫喝効果を期待できません。このため、自国における他国のスパイ活動を水際で防ぐという防諜政策としては機能しません。

 スパイ容疑による拘束が非公表とされることは、主権国家の政治的な柔軟姿勢が際立つ結果となるわけです(以下リスト参照)。

スパイ容疑による拘束事案が
公表される場合
スパイ容疑による拘束事案が
公表されない場合
政治的拘束したスパイの所属国に
敵対する強硬姿勢を示す
拘束したスパイの所属国に
交渉を促す柔軟姿勢を示す
外交的拘束したスパイの所属国の
国際社会における孤立を図る
拘束したスパイの所属国との
二国間における優位を図る
諜報的国際社会に向けた防諜効果を
期待できる(恫喝)
国際社会に向けた防諜効果を
期待できない

スパイ容疑で外国人を拘束する主権国家の意図に注目

 したがって、スパイ容疑による拘束とは、主権国家の意図によって、①政治的に、②外交的に、そして③諜報的に何かしらの意図が加えられて、取り扱われることが一般的です。逆にいえば、こうした意図次第で、スパイ容疑による拘束という「事実」が主権国家によってゼロから捏造される可能性すらあるわけです。

 主権国家の意図に注目すれば、その公表内容が「プロパガンダ」に過ぎないという評価が可能となります。そして、「プロパガンダ」と評価できれば、スパイ容疑による拘束事案に過度に注目して深刻に議論すればするほど、それは、敵対者に利益を与える結果にしかならないことが分かるでしょう。

元スパイ・クマさん
元スパイ・クマさん

スパイニュースにおいては、スパイ活動の実態など到底知るよしもない。なぜなら、「スパイ」というワードを使用することで、スパイとは何ら関係の無いところで別の利益を引き出そうとする意図が働くからだ。むしろ、スパイと関係の無いところで「スパイ」なんて騒がれると、スパイにとっては正直、複雑な心中になるかな・・・

新人スパイくん
新人スパイくん

「スパイ」って一種のパワーワードなんですね。報道上で独り歩きしてしまい、スパイと情報をめぐる実情から、多くの人たちの関心をそらせようとする意味で・・・

以 上

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