2025年04月:日中のスパイ活動を徹底比較:世界レベルで圧倒的な中国のスパイ活動に日本はどう立ち向かうか?

スパイニュース解説記事

世界レベルで圧倒的な中国のスパイ活動に日本はどう立ち向かうか?(SPY-NE027)

日本大使館との接点から「スパイ容疑」で拘束された中国人ジャーナリスト

 2025年3月31日、中国共産党系メディアの「光明日報」元幹部である董郁玉に対し、日本人外交官に情報を提供したとして「スパイ罪」に問われた第二審の初公判が開かれました。

 董氏は、2022年2月に、駐中国日本大使館の館員と会った直後に拘束されました。2023年3月に「スパイ罪」で起訴され、2024年11月に懲役7年の有罪判決を受けました。

 この判決では、駐中国日本大使館が「スパイ組織」日本人外交官が「スパイ組織の代理人」と認定されました。これに対し、日本側は3月に、「日本の外交官はスパイではない」とする日本大使の書簡を中国側に提出しました。

 特定国の外国公館を「スパイ組織」と名指しすることは、外交慣習上で極めて異例です。これは、中国が日本の外交活動を「スパイ活動」とみなして、警戒感を露わにしていることが明らかです。

 日本と中国は近年、「情報機関」による活動をめぐって緊張が高まる一方であり、両国の間では水面下で「スパイ戦争」が生じていると考えてよいでしょう。それでは、日中はどのような戦況にあるのでしょうか。

日本への防諜圧力を強める中国

 中国が、外国の「スパイ活動」への警戒感を本格的に示したのは、2014年以降です。2014年に「反スパイ法」と呼ばれる法律を制定すると、日本人だけで少なくとも17人が「スパイ容疑」で拘束されました。直近では、2023年3月に、アステラス製薬の日本人社員1人が「スパイ容疑」で拘束され、2024年8月には初公判が開かれています。

 「反スパイ法」では、日本人以外にも韓国人1人、オーストラリア人2人、スウェーデン人1人、カナダ人2人、米国人1人などが「スパイ容疑」で拘束されていますが、日本人の拘束者数が群を抜いています。中国が日本を対象として「スパイ戦争」を事実上宣告したと言って過言ではありません。

 日本は、「スパイ容疑」で拘束された日本人や、日本大使館との接点で拘束された中国人について、中国に早期解放を働きかけていますが、目立った効果を上げられていません。冒頭にあったように、「スパイ活動」を否定するばかりで、防戦一方という印象です。

日中スパイ合戦の歴史

 日中が再び戦火を交えるのは、1937年から1945年までの日中戦争以来ですが、あくまで武力戦争の場合です。「スパイ戦争」という形式で衝突するのは、紀元前の前漢と倭国という形で交流を本格化して以来で初めてでしょう。

 現行の中華人民共和国は、1949年に建国されたばかりであり、建国に至るまでは、中国共産党と中国国民党の国共内戦を経験して「二つの中国」に分裂するという波乱の幕開けでした。こうした経緯もあり、中国は建国以来、「外征していない」国家として現在も変わっていません。

 2010年に、国内総生産(GDP)で日本を追い抜いて米国に次ぐ世界第二位となり、同時期には、国防費においても日本を上回ったとされます。現在では国防費においても、米国に次ぐ世界第二位ですが、大国レベルになっても依然として本格的な対外戦争の経験を有していません

 しかし、中国が、建国以来初めてとなる本格的な対外戦争を準備していることは明らかです。武力戦争の前段階としては、情報収集と諜報工作から成る「スパイ活動」が必要とされることは、国際社会の常識です。現に、米国は、第二次世界大戦からいくつもの対外戦争を経験し、現在では、20万人規模とされる「情報機関」を抱えています。

 中国が、日本をはじめ世界各国に対して「スパイ戦争」を仕掛けているのは、米国に倣ったものでしょう。

武力戦争に比べて陣容を可視化しづらい「スパイ戦争」

 武力戦争に関する国家間の比較について、最もポピュラーなのは、国防費、軍事装備、兵員数などのデータです。世界各国は、対外的に威圧するため、こうしたデータを公表します。軍事規模が可視化されて、比較が可能なためです。

しかし、「スパイ戦争」においては、各国のスパイ活動に関する予算、活動状況、人員数などのデータが公表されていません。わずかでも公表してしまえば、「スパイ活動」の実態がある程度推測されてしまうためです。そもそも、「スパイ活動」は、あくまで「公然の秘密」であり、建前上は一切行っていない、行っていけないとされるため、対外的に公表されません。故に、諜報規模が可視化されず、「スパイ戦争」に関する国家間の比較が困難です。

 それでも、各国の「情報機関」は、「スパイ活動」に関する公開情報を収集及び分析することで、諜報規模を推測しています。こうしたデータの一部を紹介することで、日中間の「スパイ戦争」の陣容を比較してみましょう。

外国公館の設置数から見る日中間の「スパイ戦争」の陣容比較

 中国が日本大使館を「スパイ組織」と名指ししたこと自体は外交慣習上で極めて異例ですが、外国公館が「スパイ活動」の拠点となること自体は、外交慣習上で「公然の秘密」です。外交官は、スパイの典型的な偽装身分であり、大使館や総領事館など外国公館の規模を見れば、「スパイ活動」の規模が推測できます。

 日本外務省の「外交青書2024」によれば、2023年時点で、外国公館の設置数で、中国が計282か所であり、米国の計272か所を上回って世界第一位です。日本は、計231か所で第五位となっています。

 米国と中国を比較すると、大使館の設置数は、中国が173か所に対し、米国が171か所と拮抗しています。総領事館と領事館の設置数は、中国が99か所に対し、米国が85か所と中国が上回っています。

 設置数に限って見れば、「スパイ活動」の広さでは、中国が米国を上回って世界トップにあり、日本は、中国の約80%に過ぎないことが分かります。武力戦争のみならず、「スパイ戦争」においても、日本が中国の後塵を拝している現状が浮き彫りになります。

外国公館に派遣された人員規模に見る「スパイ戦争」の陣容比較

 それでは、「スパイ戦争」の活動拠点である外国公館に、どの程度の人員規模のスパイが配置されているでしょうか。スパイは、外交官に紛れ込んで身分偽装するため、外国公館における人員規模から推測が可能です。

 外国公館に人員を派遣する外交機関、つまり外務省の人員規模については、米国国務省が約3万人であり、中国外務省は約9000人とされます。日本外務省は約6000人であり、これは、米国の約20%、中国の約66%となります。日本は、設置数以上に米中と差がついており、「スパイ活動」の陣容の薄さが目立ちます。

 日本外務省は、総員約6000人のうち、およそ半数の約3000人が外国公館に派遣されています。この3000人のうち、外務省以外からの出向者は約1000人であり、この中に「情報機関」から派遣されたスパイが含まれています。

 日本の「情報機関」とされるのは、①内閣情報調査室、②公安警察、③防衛省情報本部、④公安調査庁そして⑤外務省国際情報統括官組織の5つです。外務省国際情報統括官組織を除く4つからは、スパイが外務省に出向して外国公館に派遣されています。その人数は、それぞれ数十人程度とみられ、合計しても100人規模と見積もられます。

 これが外国公館を拠点とした「スパイ戦争」における日本の人員規模となります。

 2023年度米国国務省予算教書によれば、米国の国務省は、約3万人のうち、約1万3000人が外国公館に派遣されているとされます。

 これを基準とすれば、中国の外務省の場合、約9000人のうち、およそ半数が外国公館に派遣されていいても不自然ではありません。外交機関の一般的な基準で言えば、この4500人のうち、外務省以外からの出向者は約1500人と見積もられ、この中に「国家安全部」(MSS)など情報機関から派遣されたスパイが含まれています。その人数が少なくとも数百人程度としても、これだけで日本の数倍に匹敵します。

 外国公館におけるスパイの人員規模においても、日本が中国を下回っていることが分かります。

中国の官民一体となった人海戦術としての「スパイ活動」

 2024年6月11日付けBBC報道によれば、西側情報関係者の一人は、中国が、インテリジェンス(情報)と安全保障に関連した活動に推定約60万人を割いていると指摘しました。小谷賢・日本大学教授によれば、米国の情報機関の人員規模は約20万人とされており、中国は、米国の3倍に相当するスパイを擁することになります。

  外国公館の設置数や人員規模のデータ以上に、大きな差が付きますが、他でも同じような分析が下されることが少なくありません。背景には、中国の「スパイ活動」に、西側諸国に見られない特徴が存在するためです。

 日本を含む西側諸国は、情報機関に所属する正規職員を主体とした「スパイ活動」を行います。中国の場合は、こうした正規職員ばかりでなく、民間人や民間団体も「スパイ活動」に事実上動員しています。

 例えば、中国は、主要メディアである「新華社通信」、中国文化の宣伝機関とされる「孔子学院」、中国本土の公安警察の出先機関とされる「海外警察」など、民間団体に偽装した「スパイ拠点」を世界各地に設置しています。

 こうした「民間スパイ拠点」の設置数は、いずれも世界全体で100か国を超えるとされます。その活動については、中国政府のプロパガンダ宣伝工作に利用したり、在外中国人を情報収集に協力させたり、在外中国人の反政府活動を監視するなど、自国民を「スパイ活動」に半ば引き入れる実態があります。つまり、中国の「スパイ活動」は、正規職員のスパイの手足として民間人を用いるという人海戦術という実態です。

 そうなると、中国の「スパイ活動」の人員規模が、米国の3倍に匹敵するとしても不自然ではありません。2024年6月11日付けBBC報道によれば、英国の内務省保安局(MI5)は、「LinkedIn」などの専門家向けSNS上で関係を作ろうと中国のスパイに接触された人が、英国だけで2万人以上に上ると明かしました。

 これは、一説で推定60万人規模とされる中国の官民一体の人海戦術ならば、あり得る話でしょう。

官民一体のスパイ手法が露わになった中国の防諜意思

 中国の官民一体による「スパイ活動」は、中国政府の防諜活動(カウンターインテリジェンス:CI)からも明らかです。

 例えば、2025年1月に、「国家安全部」(MSS)は、春節と呼ばれる旧正月の到来に伴い、海外渡航する自国民に対し、「海外旅行では外国のスパイ機関が接触してくることもあり、その予防策を強化する必要がある」などと呼びかけました。

  こうした注意喚起を国民全体レベルに行うこと自体には、そもそも中国自身が、自国民をスパイ活動における手足として用いており、外国も同じ手法を用いてくるのではないかという警戒感が現れています。春節で中国人に最も人気がある渡航先は、日本であり、中国は、日本の「情報機関」が自国民に接触することを懸念しているとみられます。

 また、中国では、これまで少なくとも日本人17人が「スパイ容疑」で拘束されています。この中には、日本の「情報機関」に所属する職員が含まれておらず、何人かは「情報機関」との関係が指摘されている程度で、大半は「スパイ活動」と無縁の民間人とみられます。この点についても、そもそも中国が、外国も同じ手法を用いてくるのではないかという警戒感を有することがうかがわれます。

 自分が敵にしたことは、敵から同じようにやり返されるという発想が根底にあります。

日本単独で中国のスパイ活動に対抗するのは困難

 中国は、日本の10倍を上回る人口を有して、官民一体の「スパイ活動」を展開することで、一説には約60万人と推定されるスパイの人口規模を動員できます。

 日本は、「情報機関」に所属するスパイが合計で5000人規模とされますが、中国のように官民一体の「スパイ活動」を展開していません。日本にも、日本放送協会(NHK)、日本貿易振興機構(JETRO)、国際協力機構(JICA)など、海外展開するメディアや民間機関が存在しますが、中国のように「民間スパイ拠点」となっている事実は確認されていません。

 日中のスパイの人員規模には桁違いの差があり、比較以前のレベルです。日本単独で、中国と「スパイ戦争」を戦っても勝利は望めません。

 近年、欧米やアジア近隣諸国の間で、中国の外洋進出を念頭に置いた防衛協力が進められ、国際的な枠組みの軍事訓練が実施されています。実は、「スパイ戦争」においても、日本は、多国間で一致協力して中国に対抗しています。

中国のスパイ活動に対する国際的な懸念の高まりを共有する日本

 米国、英国、カナダ、オーストラリア及びニュージーランドの5か国は、「ファイブアイズ」と呼ばれる機密情報共有ネットワークを形成しています。これらの情報機関の間では、他国に比べてより機密性の高い情報が交換されており、近年は、中国の「スパイ活動」が主要課題と共有されています。

 日本は、「ファイブアイズ」に加わっていませんが、アジア大洋州には、「ファイブアイズ」のオーストラリアとニュージーランドが位置しており、両国と対中国で連携を強化しています。オーストラリアの国家情報庁(ONI)や秘密情報機関(ASIS)と情報機関レベルで定期的に協議して、中国の「スパイ活動」について互いの情報を交換しています。

 ニュージーランドは、南太平洋の島しょ国・クック諸島への侵食をめぐって中国と緊張関係にあり、日本の尖閣諸島と同様の事情があります。ニュージーランド保安情報局(NZSIS)とも、領土拡張に向けた中国の「スパイ活動」について情報共有しています。

 「ファイブアイズ」の中核の一つである英国は、2022年において、内務省保安局(MI5)が中国共産党関連の情報収集を2018年の7倍行っており、こうした情報の一部が日本の「情報機関」と共有されています。

 そのほか、フィリピン、韓国、台湾などでも、軍事分野に対する中国の「スパイ活動」が摘発されていることもあり、その事例や手法に関する分析データが日本の「情報機関」との間で協議されています。

 こうして、世界各国の情報機関レベルで情報が共有されることで、中国の「スパイ活動」に関する各種データを広範に入手でき、分析の精度を高めることができます。日本をはじめ世界各国は、「スパイ活動」の人員規模で中国に敵わないため、「スパイ活動」の質を向上させることで、対抗しているのです。

 日本は、対中スパイ活動の多国間協力において、アジア唯一の先進国であり、韓国や台湾と並んで中国と最も地理的に近いため、中国とのスパイ戦争で当事者になるほかありません。単独ではなく、多国間協力で対抗することになり、日本にとっては長い「戦争」となるでしょう。

以 上

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