スパイニュース解説・2024年12月トランプ政権誕生と中東情勢002:トランプ外交が引き起こす!?イスラエルとイランの「冷戦」

スパイニュース解説記事

トランプ米国次期政権の誕生でイスラエルのガザ紛争周辺に生じる変化とは?(SPY-NE009)

米国大統領選でトランプ前大統領が当選

 2024年11月に、米国大統領選が行われ、トランプ前大統領が当選しました。トランプ前大統領といえば、中東地域に限りますと、イスラエル寄りの外交政策を展開して、イスラエルをめぐる中東宥和を作り出した張本人です。

 同時に、イランと敵対する外交政策を講じて、2015年に成立した核開発合意を一方的に破棄し、経済制裁を課しました。

 イスラエルとイランが初めて軍事衝突するほど、関係を悪化させていることもあり、トランプ次期政権ともなれば、この対立構図に変化をもたらす可能性は高いでしょう。こうしたこともあり、大統領選後早くも、トランプ次期大統領のガザ紛争に関する発言に注目が集まっています。

就任前から物議を醸すトランプ次期大統領の中東外交方針

 就任まで数か月を残していますが、トランプ次期大統領の様々な言動が報道されています。その中には、ガザ紛争に関するものもいくつか含まれており、選挙期間中からイスラエルとハマス及びヒズボラとの戦闘を終わらせる必要性を訴えてきました。当選後においても、ネタニヤフ・イスラエル首相と3回にわたる電話会談を行っており、これは、トランプ次期大統領と各国首脳との電話会談として確認された中では、最多の回数とみられます。

 ネタニヤフ首相は大統領選の直後に「史上最高のカムバック」と表現して、トランプ再選を祝福しました。そして、トランプ次期大統領と、安全保障上の協力について合意したと伝えられています。その詳細は明らかにされていませんが、ガザ地区とレバノン南部で地上戦が展開される中での合意であり、イスラエルに不利な内容ではなかったとみられます。

 イスラエルは、トランプ次期政権から追い風を受けて、従前までの外交姿勢を強化する可能性があります。つまり、中東地域の反イスラエル陣営のうち、サウジアラビアなどスンニ派主導勢力とは国交樹立を含めた宥和を進め、残るイランなどシーア派主導勢力とは敵対姿勢を強めるでしょう。特に、イランに対しては、トランプ次期政権と結束して、外交的にも軍事的にも圧力を加えるとみられます。

 両国はすでに軍事衝突を交わしていることもあり、再びミサイル攻撃の応酬に発展する可能性も否定できません。トランプ次期大統領は、中東地域における停戦を訴えていますが、イランが対象ともなると、軍事的にも強硬路線を講じても不自然ではありません。トランプ次期政権が始動ともなれば、イスラエルのイランを指向する軍事攻撃がより激化するかもしれません。

膠着していたレバノン南部の地上戦が一転して早期停戦へ

 2024年11月末に、レバノン南部における地上戦において、イスラエルとヒズボラとの間で停戦合意が間近であるとの報道が相次ぎました。詳細は明らかにされていませんが、報道と前後して、イスラエルとヒズボラの戦闘が激化しました。

 ヒズボラは、この時点においても、テルアビブなどイスラエル各地に向けて200発以上のミサイルを発射しており、これは一日当たりの発射数としては顕著な水準とみられます。停戦を受け入れようとするヒズボラが、有利な停戦条件を引き出そうとして、残された戦力を集中投入したかもしれません。

 イスラエルにとっても、トランプ次期政権の誕生が決まって以降、停戦する必要性に変化が生じたと判断し、ヒズボラと早期に停戦することで、紛争停止を呼びかけるトランプ次期大統領にアピールできるかもしれません。または、トランプ政権下で、米国の助力によりヒズボラと停戦できた場合、その停戦協定を破ればトランプ政権の面目を潰すことになりますが、バイデン政権下での停戦であれば、これはトランプ次期政権と関係がありません。トランプ次期政権が始動する前に、イスラエルが停戦を成立させても不自然ではありません。

 これを裏付けるように、11月26日に、イスラエルとヒズボラの停戦合意が米国によって発表されました。

 この結果、レバノンにおける戦線は終了する見通しとなり、残るは、ガザ地区、シリア、イラク、イラン及びイエメンで交戦状態が続いています。

ガザ地区における地上戦でハマスへの圧力強化

 一方、イスラエルは、ヒズボラと違って確たる交渉窓口を持たないハマスに対し、トランプ次期政権の助力を得て、圧力を強化する可能性があります。ハマスにはこれまで、カタールという仲介交渉の窓口がいましたが、トランプ再選直後にカタールは、仲介交渉の一時中断を発表しています。

 イスラエルの交渉窓口となるのは米国、つまりトランプ次期政権であり、バイデン政権下よりもイスラエル寄りの仲介交渉が展開されるとみられます。イスラエルと米国は連携して、ハマスとその支援国に圧力を掛け続けることで、停戦を実現させようと考えているかもしれません。

 支援国の一つであるカタールは、ハマス指導部を自国に受け入れていましたが、ハマス指導部を退去させるよう米国から圧力を受けたとの報道があります。ハマス指導部は、カタールを退去した後の移転先を模索しており、その有力候補には、同じくハマス支援国のトルコが挙がっています。ただ、米国は、トルコに対しても、自国内にハマス指導部を受け入れないよう警告を発しています。

 ハマスは、米国からの圧力に晒されたカタールやトルコなど支援国から支援を期待することが困難となっており、孤立化の様相を呈しています。こうした孤立化政策によって、イスラエルと米国は、ハマスを停戦へ追い込もうと意図しているのでしょう。

ガザ紛争の出口戦略に向けたハマスの思惑

 ハマスは、トランプ次期政権の誕生によって、イスラエルとの戦闘継続又は停戦いずれかの選択を迫られているかもしれません。そもそも、ハマスがイスラエル南部を攻撃したのは、イスラエルとサウジアラビアの国交樹立を阻止するためとみられます。2020年以来、中東宥和の流れの中で、両国は2024年中にも国交を樹立することで合意するとの見通しがありました。

 しかし、イスラエルがガザ地区に陸上侵攻し、一般市民を巻き込んでハマスと交戦することで、サウジアラビアは、国交樹立の方針を翻しました。そして、パレスチナ問題が解決されるまで、イスラエルと国交樹立しないという従来の方針に立ち返りました。この結果、2020年から3年にわたる中東宥和の流れは消失しました。この時点で、ハマスの目標はすでに達成されたと言えます。

 ハマスはそもそも、組織の存亡を賭けてまで、イスラエルと決着をつける理由などありません。今後もイラン、カタール、トルコなどの支援国から支援を受けつつ、ガザ地区を実効支配できる体制が維持できれば問題ありません。

 こうした中、トランプ米国政権の誕生が決まり、支援国に対する米国の圧力が強まっています。これは、ハマスへの支援ルートが圧迫されることを意味しており、ハマスがイスラエルと敵対し続ければ、これを口実に、米国が支援国に一層強く圧力を掛けるかもしれません。ハマスは、こうした口実を与えないためにも、イスラエルと何らかの形で停戦する必要が生じており、トランプ次期政権の誕生によって、その必要性が高まったとみられます。

過去の経緯からトランプ次期政権を警戒するイラン

 トランプ次期政権の誕生に際して、中東地域で最も警戒を要する国といえば、イランが挙げられます。イランは表面上、トランプ次期政権の誕生に対して特段の反応も示していません。現時点では、あくまでもイランと無関係であるとの立場を示しています。

 イランは、2015年に米国らと成立した核開発合意に基づいて、核兵器保有につながる開発を中断していましたが、2018年にトランプ前政権下で一方的に破棄されました。そして、経済制裁を課されており、これに反発して、ウラン濃縮活動を一部再開したとみられます。

 こうした経緯があり、イランがトランプ次期政権の誕生に対し、早々に反発しても不自然ではありません。

 イラン政権内部ではおおむね、イスラム体制を維持して反米・反イスラエルを掲げる保守派と、イスラム体制を変更して欧米との協調を掲げる改革派に分かれており、2024年7月のイラン大統領選では、改革派候補者が当選しています。イスラム体制下では、イラン大統領があくまでも最高指導者ハメネイ師よりも下位にあります。ハメネイ師は、イランを反米・反イスラエル路線に転換した革命の後継指導者であるため、現時点で、外交政策に特段の変更が生じていません。

 ただ、トランプ再選を受けて、改革派が米国との協調路線の必要性が高まったと主張することが考えられます。一方、保守派は、米国からの圧力強化を受けて反米・反イスラエルを一層強化すべきと主張することも考えられます。

 したがって、イラン政権内部が従前よりも一層対立を深める可能性があります。

対米強硬路線を維持かそれとも変更かを迫られるイラン

 平静を装うイランですが、早くもトランプ次期政権の発足を見越して、対米強硬路線を維持するか、それとも変更するかを迫られている模様です。

 トランプ再選から数週間後、イランは、新型の遠心分離機の製造を命じたとの報道があり、西側諸国が懸念を表明しています。こうして、ウラン濃縮活動を拡大する方針を示すことで、核兵器の開発を進めて保有に至るプロセスを進めることは、トランプ次期政権への予防的な対抗措置とみられます。

 つまり、前政権時のようにイランに圧力を掛ければ、最終的に核保有も辞さないという強硬姿勢を示したメッセージとなります。

 一方、11月25日付け共同通信の報道(以下外部リンク)によれば、「イラン政府が、対イラン強硬姿勢のトランプ次期米大統領に『最大限の圧力政策をとらないよう求める』書簡を仲介役のカタールを通じて送った」とされます。詳細は定かではありませんが、イランは、核開発を交渉材料として、トランプ次期政権との対話を求めたメッセージとも考えられます。

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 イラン政権内部ではすでに、トランプ次期政権に反発して核開発を進めようとする保守派とトランプ政権との対話を実現させようとする改革派がそれぞれ、メッセージを発することで、結果的にイランは、和戦両様のトランプ対策が講じられているとみられます。

トランプ次期政権による対イラン強硬外交という見通し

 こうして一挙手一投足が注目されるトランプ次期大統領ですが、再選後においては、イランに対する外交方針を具体的に示していません。

 ただ、選挙期間中には、イランに対して最大限の圧力を掛けるとして、核開発業からの再離脱と経済制裁の実施を示唆しました。その上で、イランと連携するシーア派主導勢力への対抗措置を講じると表明しています。

 現時点では、トランプ次期政権にこうした表明を撤回させるような事情は確認されていません。政権発足後においては、イランに対して、前政権時と同様の強硬外交が展開されるとみられます。

 前政権時と異なるのは、イスラエルがイランと軍事衝突するほど安全保障上の緊張状態が高まっていることです。次期政権においては、外交面のみならず、軍事面においてもイスラエルを重視する姿勢を打ち出すとみられます。その反動によって、イランに軍事圧力が加えられ、イスラエルが軍事的優勢となっても不自然ではありません。

イラン強硬路線が生じさせかねない中東地域の危険性

 仮に、トランプ次期政権がイランとの対話を一貫して拒否し、経済制裁や軍事行動などの圧力を強化し続けたら、イランの出方はどうなるでしょうか。

 イランは、2024年10月26日にイスラエルから本土を空爆されており、今度は、イスラエルが報復を受ける側にあると繰り返し主張しています。トランプ次期政権から圧力を受けた場合、こうした報復攻撃の実施を、警告メッセージの一つとして発することができます。

 それでもなお、トランプ次期政権が圧力を止めなければ、イランとしては、核開発問題を除いて、警告メッセージを発しようがなくなるとみられます。イランが核開発問題を全面に押し出して、どの程度のレベルにまで対話と恫喝を行うかは、トランプ次期政権の圧力次第ということになります。

 最悪の場合、イランによる核兵器の保有と拡散や、潜在的に核保有するイスラエルとの「冷戦」となるかもしれません。

以 上

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