スパイニュース解説・2024年10月イスラエル・イラン軍事衝突003:トランプ米国政権の誕生でイスラエル強硬論不可避?

スパイニュース解説記事

紛争を拡大して継続する現状において停戦に至るまでの見通しは?(SPY-NE007)

イスラエルのレバノン侵攻から1か月余り経過するも戦闘が断続的に発生

 2024年11月に入り、イスラエルがレバノンに陸上侵して1か月が経過しましたが、ヒズボラとの間で戦闘が断続的に発生しています。

 イスラエル側は、レバノン南部における1か月間の陸上戦において、ヒズボラのミサイル発射能力の大半を破壊した旨主張しています。しかし、11月時点においても、レバノン南部からイスラエルに向けて断続的にミサイルが発射されています

 ヒズボラは、イスラエルの攻撃で指導者ナスララ師らを失いましたが、現指導者のカーシム師は、あくまでも抵抗活動を続ける意思を示しています。ただ、イスラエル軍が、ガザ地区とレバノン国内それぞれから撤退することで停戦に応じるともしており、陸上戦を続行するイスラエルとの間で平行線が続いています

イラク民兵組織による断続的なイスラエル攻撃

 2024年5月に、親イランのシーア派民兵組織「イラクのイスラム抵抗運動」(IRI)がイスラエルに向けて初めてミサイル攻撃を行いました。IRIは、イラクにおいて、イランによる「シーア派の三日月」を構成する武装勢力の一つであり、前月4月に、イランがイスラエルと直接戦火を交えたことに追随するように、イスラエルへの軍事攻撃に加わりました。この結果、「シーア派の三日月」の構成当事者が、全てイスラエルへの軍事攻撃に参加したことになります

 イスラエルとイランとの総力戦が本格的に始まったという意味で、2023年10月以来のガザ戦争において、転機となりました。

 10月に、イスラエルとイランが再び軍事衝突すると、イラクのシーア派民兵組織は、10月26日のイスラエルによるイラン攻撃に報復する姿勢を鮮明にしています。

イエメンにおける米英連合軍とフーシー派の交戦

 イエメンでは、2023年10月に、ハマスと呼応するようにして、フーシー派がイスラエルにミサイル攻撃を実行しました。これ以降、紅海を航行中のイスラエル船籍を標的として攻撃する旨宣言しました。

 イスラエル船籍とみなされた商船がフーシー派からの攻撃に晒され、翌11月には、日本企業が運航する商船がイスラエル船籍と誤認されて、フーシー派戦闘員に占拠される事案も発生しました。相次ぐ商船襲撃に対し、翌12月には、米英を中心とする連合軍が結成され、年が明けた2024年1月には、イエメン国内のフーシー派拠点に対して、初めての本格的な空爆が行われます。

 それでもなお、フーシー派によるイスラエル本国やイスラエル船籍を標的とした攻撃は止まず、米英を中心とする連合軍の報復が断続的に発生しています。2024年7月には、フーシー派がテルアビブを無人機で攻撃し、人的被害が発生しました。

 フーシー派は、イランから支援を受けつつ、イエメン首都を制圧しており、「シーア派の三日月」と呼ばれるイスラエル包囲網と連携して、イスラエルへの脅威を与え続けています。空爆では、そのミサイル発射能力を除去することが困難であり、戦闘が長期化する様相を呈しています

ガザ地区の地上戦をめぐるハマスとの停戦交渉

 2023年10月27日から、ガザ地区におけるイスラエル軍の地上戦が本格的に開始され、すでに1年余りが経過しましたが、ハマスとの戦闘が停止される見通しが立っていません。カタール、米国などが仲介して一時的に停戦されることもありましたが、間もなくして戦闘が再開されます。

 ハマス戦闘員は、その大半がガザ地区内に残留しているとされます。指導者を次々と失って以降も、現地司令官の指揮の下で、イスラエル軍へのゲリラ戦を展開しているとみられ、イスラエル兵の人的被害が増加し続けています。

 こうした中、2024年11月になって、停戦交渉を仲介してきたカタールが、仲介交渉から離脱します。カタールは、ハマス支援国の一つであり、自国内にハマス指導部を受け入れることで、ハマスに影響力を有しています。同時に、国際社会に対しては、ハマス側の窓口を務めており、パレスチナ問題に関係する当事者の一つとして、国際的な存在感があります。

 離脱の背景には、カタールと共に、仲介役を務める米国から圧力があったとされます。米国は、仲介に当たって、イスラエル側の窓口を務めていますが、ハマスが強硬姿勢を崩さないことが和解の障害と繰り返し非難してきました。カタールの離脱後間もなく、ブリンケン米国務長官は、「ハマスが武装解除を拒否したばかりか、ガザ地区からの安全な退去までも拒否した」などと発言しています。

ハマス指導部のカタール退去問題で暗礁に乗り上げた停戦交渉

 カタールが停戦交渉の仲介役から離脱すると前後して、ハマス指導部は、カタールからの退去問題に直面します。2024年11月時点で、ハマス指導部の退去は確認されていません。

 欧米メディアの報道上では、カタールがハマスの存在をもはや容認しておらず、その退去を求めたとされます。また、ハマス指導部は、カタール政治事務所がこれまで通り業務実行することが困難となった旨発言したともされます。

 これに対し、アラブメディアでは、欧米メディアの報道を否定し、カタールもハマス指導部も退去については、双方の間で議題になっていない旨報道されています。カタールは、一連の報道を「不正確」としており、間もなくして仲介交渉の一時中断を発表しました。

 真相は定かではありませんが、報道内容から、仲介役を務めるカタールと米国との間に、食い違いが生じていることがうかがわれ、これに嫌気が差したカタールが仲介役を一旦降りたとみられます。

 いずれにしても、カタールは、ハマス側の窓口を務めていたこともあり、ハマスは、仲介役の代理人を失った形となります。一方、イスラエルには、引き続き米国が窓口となっており、今後は、米国が何らかのルートでハマス指導部と仲介交渉するほかありません。米国は、ハマスの強行姿勢を批判しており、停戦交渉が進む見通しが立ちません

イスラエル軍の撤退と引き換えでしか停戦意思を見せないヒズボラ指導部

 レバノン南部でも、イスラエル軍の陸上侵攻が続いており、ヒズボラとの停戦交渉も行われていますが、双方とも平行線を辿っており、難航しています。

 イスラエルは、ヒズボラのミサイル発射能力によって、イスラエル北部が脅威に晒されているため、レバノン南部で限定的な地上戦に乗り出しました。故に、停戦条件は、ヒズボラに武装解除を求めるとともに、リタニ川以北へ撤退することです。

 リタニ川は、イスラエル国境から北方のレバノン側へ約30キロ離れた場所を流れており、1972年にイスラエルがレバノン侵攻した際に、制圧目標となった経緯があります。イスラエルは、イスラエル国境からリタニ川までを非武装の緩衝地帯にすることで、イスラエル北部へのミサイル発射を阻止しようとしています。

 しかし、ヒズボラは、レバノン南部に侵攻したイスラエル軍の撤退を停戦条件の一つとしており、イスラエルが求めるリタニ川以北までの撤退については、特段の返答もしていません。さらに、ガザ地区におけるハマスへの攻撃停止も停戦条件に含めており、ガザ地区での地上戦を継続するイスラエルとは、真っ向から対立しています。

 ヒズボラはかねてより、ハマスと連帯する姿勢を示しており、2023年10月にハマスがイスラエル南部を攻撃すると、直ちにこれに加勢するとして、イスラエル北部へのミサイル発射を開始しました。ハマスは、ヒズボラにとって、スンニ派とシーア派宗派は違えども、イスラエル本国を南北から挟撃する上で重要な軍事的パートナーです。

 仮に、ハマスが壊滅させられて、ガザ地区がイスラエルにとって脅威でなくなれば、この挟撃体制が崩壊してしまいます。そうなれば、イスラエルは、北部の脅威であるヒズボラに戦力を集中できるようになり、ヒズボラの存亡に関わります。

 したがって、ヒズボラは、レバノン南部とガザ地区を切り離して停戦交渉することに一貫して反対しており、ハマス同様、停戦交渉が進む見通しが立ちません。

カタールに代わって仲介交渉に乗り出す中東諸国

 カタールが離脱し、イスラエルをめぐる停戦交渉が進まない中、2024年11月、中東諸国の大国サウジアラビアは、アラブ・イスラム諸国の首脳を集めて、イスラエルとガザ地区をめぐるパレスチナ問題について協議しました。

 その結果、イスラエルに対しては、無条件及び即時の戦闘停止を要求しました。国際社会に対しては、ガザ地区への人道支援を拡大するよう呼びかけ、イスラエルに拘束力のある決議を下すよう求めました。サウジアラビアは、問題解決に向けた調停者としての立場を明確にする一方、イスラエルとの国交正常化よりも、パレスチナ問題の解決を優先する姿勢を示しました

 サウジアラビアは近年、イスラエルと宥和する動きを見せていましたが、イスラエルのガザ地区への陸上侵攻を受けて、その方針を翻しました。そして、パレスチナ問題をめぐる紛争の調停役として自らの立場を明らかにしたことで、一方の当事者であるイスラエルに肩入れしたと受け取られかねない言動を控えざるを得ません。

 この首脳会議は、イスラエルをめぐる中東宥和が頓挫したことを、改めて見せつけることになりました。

戦線継続の姿勢を堅持するイスラエルの限りある人的資源という逆風

 2024年11月現在、イスラエルは、パレスチナ自治区ガザ及びレバノン南部で空爆と陸上戦を展開するほか、シリア、イラク、イエメン及びイランの4か国に対して、ミサイル攻撃や空爆を実行しています。イエメンにおいては、イスラエルのみならず、米英を中心とした連合軍による空爆も行われています。

 イスラエルは、連合軍から軍事支援を受けるイエメンを除いても、単独で1地域5か国で戦線を同時に維持していることになります。まさに総力戦の構えで、軍事能力を投入していることがうかがわれます。ネタニヤフ・イスラエル首相は、自らの停戦条件が容認されるまで戦闘続行すると繰り返して、譲歩する気配を見せません。

 2023年10月から始まった一連の戦闘は、すでに1年を経過しています。イスラエル軍は、米国からの軍事援助を得て最新装備と武器弾薬を調達しており、継戦能力には十分な余力を有しているかもしれません。

 ただ、人的資源はどうでしょうか。イスラエル軍の最新装備は、逆に言えば、限りある人的資源を消耗せず、軍隊を運用するために調達された一面があります。

 イスラエルは、人口約900万人のうち、イスラエル軍の軍役を担うユダヤ人は700万人程度と見積もられます。このうち、イスラエル軍の総兵力が約17万人から63万人(予備役含む)と見積もると、これは、日本の自衛隊の総兵力約23万人〜30万人(予備役含む)をおおむね上回ります。しかし、人口を占める兵員の割合、つまり対人口比で見ると、自衛隊が約0.24%に対し、イスラエル軍は9.00%に達しており、イスラエル軍には人的資源に余裕がないことがうかがわれます。

 人的資源は、継戦能力に大きな影響を与えるため、イスラエルによる戦線継続がどの程度可能か疑問があります。人的資源に余裕が失われて継戦能力が維持できなくなれば、イスラエルは、戦線の縮小、又は停戦のための譲歩を考えざるを得なくなるとみられます。

米国における親イスラエル政権の誕生というイスラエルの順風

 こうした中、2024年11月には、米国大統領選が行われ、トランプ前大統領が次期大統領に返り咲きました。

 トランプ次期大統領は、前政権下でイスラエル寄りの外交政策を打ち出したことで知られています。代表的なことといえば、エルサレムを首都と認定し、米国大使館をテルアビブから移転したことがあります。イスラエルの首都は、国際社会の認識上でテルアビブとされており、テルアビブには、日本を含む各国の外国公館が置かれています。しかし、イスラエル自身は、エルサレムを自国首都とする見解を有しています。

 それ以上に重要なのは、2020年にアブラハム合意を実現し、アラブ首長国連邦(UAE)等にイスラエルを承認させたことがあります。昨今の中東宥和の流れを作り出した張本人であり、2025年1月からのトランプ次期米国政権が、イスラエル寄りの外交政策を再び打ち出す可能性は高いでしょう。

 ましてや、イスラエルは、イランをはじめとするシーア派主導勢力と紛争の真っ只中です。トランプ前政権は、そのイランに対して、核開発合意を一方的に破棄した上で、経済制裁を課した経緯があります。イスラエルとイランの直接的な軍事衝突が発生するほど両国間の対立が深刻化する中、トランプ次期政権が、イスラエルを支持してイランと敵対する可能性があります

 そうなれば、イスラエルは、米国から更なる援助を得て、イランとの対決姿勢を強め、各地における戦線で停戦に応じないという強硬路線を採用しても不自然ではありません。

 したがって、イスラエルをめぐる戦局が今後、長期化しても不自然ではないでしょう。

以 上

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