ベラルーシで「スパイ容疑」で邦人拘束が相次ぐことの意味(SPY-NE011)
再びベラルーシで発生した邦人の「スパイ容疑」による拘束
2024年12月3日、ベラルーシの独立系メディアとされる「ゼルカロ」(Zerkalo)は、12月1日、ベラルーシ南東部ホメリ(又はゴメリ)州で、高速道路を撮影していた日本人男性が「スパイ容疑」でベラルーシ当局に拘束されたことを報じました。
拘束された日本人男性は、国家保安員会(KGB)に身柄を引き渡され、事情聴取を受けているとされます。現時点で、身元が判明しておらず、12月6日、現地日本大使館は「事実関係を調査中」とコメントしています。

ベラルーシでは、本年9月、国営放送を通じて、7月に日本人男性が拘束されていたことを明らかにしており、日本人の拘束は今回で2例目となります。

ベラルーシにおける日本人拘束が相次ぐことの異例さ
東欧の小国であるベラルーシで、日本人が「スパイ容疑」として拘束されることは、異例であり、こうした拘束事案が2024年以前に報道上で確認されたことはありません。
しかし、2024年に入って、7月に日本人1人が拘束されていたことが9月になって判明し、これに続いて、12月に再び日本人が拘束されたことが明らかになりました。拘束事案の発生ペースもおよそ半年に1回となります。
中国では、2014年に「反スパイ法」が施行されて以来、2023年まで少なくとも17人の日本人がスパイ容疑で拘束されました。直近10年間で平均すると毎年1.7人が拘束されたことになります。
しかし、ベラルーシでは、1年間と短期ながらも2024年だけで日本人2人が「スパイ容疑」で拘束されました。これは、中国を超えるペースであり、極めて異例です。日本人が拘束対象となっていることを示すのでしょうか。

実は、ベラルーシでは、日本人以外の外国人も拘束されている模様です。ドイツメディアの報道によれば、2024年中には、ベラルーシ国内で、ウクライナ、リトアニア、ポーランド、ドイツなど19人以上の外国人が拘束されたといいます。
こうしたことから、ベラルーシ当局は一見、日本人を特に狙ったわけではないとみられます。

二つの拘束事案の類似点と差異点とは?
ペラルーシでは、こうして2例の日本人拘束事案が立て続けに発生しました。1例目と2例目では、日本人が「スパイ容疑」を掛けられて地元当局に拘束され、国家保安員会(KGB)へ引き渡された点で共通しています。
しかし、異なる点といえば、拘束事案の発生を伝える報道ソースが挙げられます。9月に判明した1例目は、ベラルーシ国営放送「ベラルーシ1」(Belarus-1)をはじめとする国営メディアでした。一方、12月に判明した2例目は、「ゼルカロ」(Zerkalo)というベラルーシの民間メディアの報道でした。
つまり、1例目においては、ベラルーシ国営放送を通じて世界各国に向けて日本人の拘束が発表されながらも、2例目では、ベラルーシ政府と対立する反政府メディアによる報道でした。これは、ベラルーシにおける日本人拘束を分析する上で、重要な要素となります。

今回の日本人拘束を報道したゼルカロとは?
今回、日本人拘束を明らかにしたゼルカロは、インターネットを主な媒体としたロシア語ニュースメディアであり、テレビやラジオを通じた媒体を有していません。前身は、「タットバイ」(Tut.By)という2000年に創設された同国で著名なメディアでしたが、2022年6月に、ベラルーシ政府から閉鎖命令を受け、スタッフが逮捕されました。ベラルーシ国外において、新たに創設されたのが「ゼルカロ」です。
ベラルーシ政府から弾圧された経緯もあり、ゼルカロは、政府に批判的な論調を展開することで知られており、ベラルーシ国内の反体制派から支持を受けるとされます。ベラルーシ国外で活動する民間メディアは、どのようにして、ベラルーシ国内における日本人拘束という事案を把握できたのでしょうか。それも、12月1日に日本人が拘束されてからわずか数日後に、その発生を報道しています。

反体制メディアによる日本人拘束の報道が持つ意味とは?
つまり、12月に判明した2例目の日本人拘束は、ベラルーシ国内からの何らかの情報リーク、要するに暴露されたということです。少なくとも、ベラルーシ政府が意図的に日本人拘束を明らかにした1例目とは異なります。
ゼルカロは、「欧州最後の独裁者」と呼ばれるベラルーシのルカシェンコ政権を批判しています。日本人拘束に関する情報を何らかの取材ルートで入手した場合、ルカシェンコ政権による不当な外国人拘束として、世界中に問題提起する目的で報道することは当然でしょう。
故に、2例目の日本人拘束は、ベラルーシ反体制派による政治活動の一環として利用されたわけです。ベラルーシ反体制派が、日本人を保護することで何らかの利益を享受するとは考えられません。
つまり、2例目においては、日本人を拘束したベラルーシ当局の意図が反映されないまま、報じられてしまいました。

国営放送による日本人拘束の発表が持つ意味とは?
一方、9月に明らかになった1例目は、ベラルーシ国営メディアの報道によるものでした。つまり、政府管理下にある報道機関ということは、政府の意図や思惑が働くため、ベラルーシ政府が日本人拘束を国家意思として内外に示したと考えられます。
7月に日本人を拘束してから、約2か月の空白期間を経て9月に発表しています。その2か月間において、拘束した日本人に対する事情聴取が一通り終わっており、その身柄の処遇について、政府内部で検討されたとみられます。こうした検討の中で、日本人拘束を、国営メディアを通じて公表すると定められ、我々が知るに至ったと考えられます。
こうして十分な時間が掛けられて公表に至ったことを踏まえると、ベラルーシ政府が対日関係の悪化を考慮してもなお、利益があると判断したことが明らかです。ベラルーシでは、いついかなる時も日本人が「スパイ容疑」で拘束されるという状況にあるというのがベラルーシ政府の意思でしょう。

1例目と2例目で異なるベラルーシ政府の対応
12月に判明した2例目は、1例目と異なり、12月1日に日本人が拘束されて数日後に、ベラルーシ国外の反体制派メディアによって公表されています。
「ゼルカロ」の報道によれば、拘束された日本人は、国家保安員会(KGB)に身柄を引き渡された模様であり、事情聴取が行われていた最中に、その拘束事実が公表されたとみられます。1例目のように一定期間、事情聴取が行われ、その身柄の処遇について政府内部で検討される手はずであったかもしれません。
しかし、時間的にみても、こうしたプロセスを経ていないことが明らかであり、2例目については、ベラルーシ政府が対日関係の悪化を考慮してもなお、公表する利益があると判断する余地はありません。つまり、ベラルーシ政府の意思に関係なく、反体制派メディアによって、公表されてしまったのでしょう。
ベラルーシ政府にとっては、思いも掛けない展開かもしれません。ただ、1例目においては、国営メディアを通じて、日本人拘束を明らかにした経緯があります。2例目についても、遅かれ早かれ日本人拘束を再び公表しても不自然ではありません。ただ、反体制派メディアが何らかのルートを通じて、公表していない日本人拘束に関する情報漏洩を把握し、政府批判の一環として暴露した点は、ベラルーシ政府にとって不利益といえるでしょう。

一度目は偶然、二度目は必然、三度目は悪意
ベラルーシでは、2024年中に日本人拘束が2件発生しました。短期間に1件のみならず、立て続けに2件発生したことは、スパイの諜報活動の点から重要な意味があります。
スパイたちの間では、「一度目は偶然、二度目は必然、三度目は悪意」という教訓が存在します。一度しか起こっていないならば、何らかの偶然に過ぎず、気にする必要はありません。同じことが二度目となると、偶然と偶然が一致するという偶然にしては出来過ぎたことであり、注意を要するでしょう。そして、同じことが三度目となると、これは、悪意をもって敵対者が引き起こしており、直ちに対処しなければなりません。

ベラルーシでは、本年7月に、ベラルーシ政府によって「スパイ容疑」で日本人が拘束されましたが、この時点では、「スパイ容疑」の嫌疑をかけられた外国人が偶然、日本人であっただけと考えられます。しかし、12月に再び、ベラルーシ政府によって「スパイ容疑」で日本人が拘束されています。その公表プロセスについては、ベラルーシ政府の意思に基づいていないものの、日本人が「スパイ容疑」で拘束されたことは共通しており、もはや単なる偶然では片付けられません。
ベラルーシでは、2024年中に19人以上の外国人が「スパイ容疑」で拘束された模様ですが、うち日本人が2人ということは全体の約1割に相当します。この点についても、偶然にしては出来過ぎたといえます。
ベラルーシ政府が何らかの意図を有して、日本人スパイの炙り出しを進めていると指摘されても不自然ではありません。

ベラルーシにおいては日本人が誰でも「スパイ容疑」で拘束される状況
したがって、ベラルーシでは、日本人が「スパイ容疑」でいついかなる時にも拘束される条件が揃っているといえます。
これは、高速道路をカメラ撮影していたなどの行動があろうとなかろうと関係ありません。不運なことに現地当局からスパイと勘違いされたというレベルではなく、3例目が発生する可能性があります。こうなると、現地当局が、日本人をスパイに仕立て上げようとしていると言って過言ではなくなります。
ベラルーシ政府がこうして日本を敵視するとしたら、その背景には、ウクライナ戦争において、ベラルーシがロシアを支持し、日本がウクライナを支持する西側諸国に所属していることがあります。ベラルーシが、同盟関係にあるロシアに対し、同盟国として心証を良くするために、対立陣営に属する日本の諜報活動を取り締まる姿勢を見せているとみられます。
ベラルーシで相次ぐ日本人拘束は、ウクライナ戦争をめぐる国際諜報戦に日本が巻き込まれている現状を改めて浮き彫りにしており、ベラルーシ以外においても在外日本人は、こうした現状を自覚する必要があるかもしれません。

以 上



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