スパイエンタメ解説・アニメ「SPY×FAMILY」(スパイファミリー)第03話002:あらゆる事前想定が必要とされるスパイの偽装工作

スパイエンタメ解説記事

ビジネスライクな家族によって失われる人間と人間の普遍的なつながり

 例えば、黄昏と情報屋フランキーとの関係は、スパイと協力者という互いの素性を知っています。故に、フランキーが黄昏の任務に必要な協力を提供することで、見返りとしての報酬を受け取るというビジネスライクな関係です。

 フランキーがどのような経緯を経て黄昏の協力者となったかは、現時点で明かされていません。そもそも、黄昏自身がフランキーという協力者を登録したのか、又は黄昏が前任者から引き継いだのか分かりません。

Ⓒ『SPY×FAMILY』制作委員会・『SPY×FAMILY』第01話より引用

 スパイは、あらゆる情報源を構築することが主な任務であり、こうした情報源の中からは、協力者と呼ばれるほどスパイとの協力関係が確立した者もいます。スパイが協力者を運営するまでのプロセスは二つあり、一つは、スパイが自身で情報源を協力者にまで登録することがあります。もう一つは、前任者のスパイから引き継ぎを受けた協力者です。

 いずれにしても、協力者に認定されるほどフランキーは、黄昏が所属する諜報機関にとって、信用を置くことができるわけです。そして、こうした協力者には、協力に応じた報酬が提供されるのが常であり、スパイと協力者の関係はビジネスライクなものになります

 仮に、黄昏が、娘役アーニャと妻役ヨルから十分な信用を得ることになり、「ストリクス」作戦における黄昏の協力者と認定できるようになったらどうでしょうか。それは、フランキーと同様、協力度に応じた「報酬」を二人に与えることが必要となります。家族を偽装するために、協力に応じた報酬という交換条件が成立するというのは、あたかもビジネスの一環で人間関係を形成していることになります。

 本作は、スパイにとって縁の薄いはずの家族をテーマとしています。スパイの身分偽装によって形成されたに過ぎない家族が、結果的に、理想的な家族像を描き出したという展開を台無しにしかねません

 しがたって、黄昏は、「ストリクス」作戦の進行に当たっては、アーニャとヨルに事情を明かすわけにはいかず、どこまでも独力で任務を遂行せざるを得ないわけです。なお、アーニャは、そんな黄昏の事情を知っていますが、黄昏を助けるにはあまりに幼いため、黄昏にとって頭痛の種になりがちです。

Ⓒ『SPY×FAMILY』制作委員会・『SPY×FAMILY』第03話より引用

「あらゆる事態を予測し、準備し、周到な計画に基づいて行動するのがスパイの鉄則」(『SPY×FAMILY』第03話より引用)

 黄昏は、イーデン校の入学受験に通用する家族像を作り上げるため、アーニャとヨルを同伴して街へ出かけます。しかし、二人は、入学受験で求められる教養やマナーに通じておらず、黄昏の目論見は空回りするばかりです。もちろん、二人に任務内容を明かして、協力を引き出すことができれば、少なくとも空回りしたりしないでしょう。

 黄昏は、二人の「非協力的」な様子に心が挫けかけながらも、スパイとしての鉄則に立ち返ります。

 この鉄則は黄昏のみならず、現実的には、スパイであれば誰でも直面するものです。そして、この鉄則をいかに厳守し、実践することができるかによって、自らの任務の成否が左右されます。

Ⓒ『SPY×FAMILY』制作委員会・『SPY×FAMILY』第03話より引用

あらゆる事態を予測すること

 スパイは、あらゆる事態を予測しなければなりません。任務を遂行する上で考えられるだけの状況、条件、環境、人間関係、危険、脅威、偶発的イベントなどを予測しておかねばなりません。いかなることが生じても、決して思考停止に陥らず、冷静さを失わず、ましてや絶望してはなりません。粘り強く思考を働かせて、事態を好転させるための手札を次々と作り出して、これを絶やすことなく何度も試すという度胸が求められるからです。

 ましてや、固定観念や偏見に囚われてはならず、一般社会で信じられていること全てを疑い、その疑いを検証し続けるべきです。検証することで、どこまで信じても大丈夫か、どこまで信じたら危険か、という「信ぴょう性」を推し量っていかねばなりません。

あらゆる準備をすること

 スパイは、あらゆる準備を惜しんではなりません。予測された事態に応じて、具体的な手順を事前に決めておきます。状況や環境次第で受け身の立場に立った場合、どうするかということです。

 手順を決めるにあたっては、「信ぴょう性」の高いものから順番に優先順位をおくことが大切です。信ぴょう性が高いということは、要するに、遭遇する可能性が高いと考えられ、可能性が高いものに対する手順を決めておけば、予測不能な事態に陥ることも少なくなります。

 可能な限り予測不能な事態に陥らずに済むならば、精神的に余裕が生まれ、結果として成功可能性も高まります。

周到な計画を作ること

 スパイは、周到な計画を作り出さねばなりません。具体的な手順を考えて準備を整えたら、今度は、自発的にどうするかということを決めておきます。

 受け身になるばかりでは、その場限りの対応に終始するばかりとなり、物事を進展させることが困難です。思い通りに物事を進めることができるよう計画を立てておく必要があります

 これは、受け身への対応を決める準備と異なり、いかなる状況や環境に置かれても、自発的に行動できるよう複数の計画を立てておくことが重要です。複数の計画を立てておけば、状況や環境次第で計画の一つが進展困難になっても、別の計画に応じて自らの自発的な行動を持続することが可能となります。持続可能な行動を計画的に進めることで、成功する可能性も高まります。

計画に基づいて行動すること

 そして、計画に基づいて行動しなければなりません。複数の計画を立てておいても、計画に従って行動できなければ、計画自体に意味がありません。

 そもそも計画自体が、行動力を伴うことができるよう実践的でなければなりません。どれほど壮大かつ緻密に計画しようとも、行動する上で実現性や利便性が乏しければ、行動しようがありません。

 実践的な計画であっても、行動する段階で計画内容を記憶しておかねばなりません。記憶を違えてしまえば、計画自体がなし崩し的に変わってしまい、計画したこと自体も意味がなくなります。

 複数の計画を立てている場合、自分がどの計画に従って行動しているかを意識しておく必要があります。そして、別の計画に切り替える場合、どの時点からどの計画にどう変更したのか、というプロセスを把握しておかねばなりません。把握しておかないと、気が付いたら元の計画に戻っていたという事態になりかねません。

「ならば、想定される面接官の質問を一つ残らず列挙し、それに対する完璧な回答を二人に暗記させる・・・」(『SPY×FAMILY』第03話より引用)

 黄昏は、こうしたスパイの鉄則に従って、アーニャ及びヨルと共にイーデン校の入学受験に臨むことを決意します。

 先ずは、あらゆる事態を予測するため、入学受験の面接で面接官から質問されることが想定される質問を全て列挙しようとします。入学のための面接であり、受験生である子どもに両親が同伴するという条件設定です。列挙する上でヒントとなるのは、イーデン校が歴史ある名門校であり、あらゆる分野で優秀な生徒を輩出する国内トップクラスの教育機関ということです。

 こうした名門校に入学する生徒に求められる理想像を逆算すれば、例えば、芸術に関心が高く、品の良い礼儀作法を身に付けていることが挙げられます。黄昏は、二人を伴って、オペラや絵画を鑑賞したり、レストランで食事することで、上流家庭にある一般常識に触れようとしました。

 結果はともかく、面接は、親子三人が一体となって受ける必要があり、三人で行動することでどうなるかを事前に把握できたことは、黄昏にとって大きな収穫でしょう。

Ⓒ『SPY×FAMILY』制作委員会・『SPY×FAMILY』第03話より引用

「よしっ!何か聞かれたら、今日のことを言え」(『SPY×FAMILY』第03話より引用)

 次に、準備をして、周到な計画を立てるため、列挙した質問に対する完璧な回答を用意することにします。

 黄昏は外出後、アーニャと再び模擬面接を行います。アーニャは、休日の過ごし方について問われると、実際の外出時における行動を述べます。黄昏は、我が意を得たりと言わんばかりに、アーニャの回答を模範解答であったとして褒めます。こうして模擬面接を通じて、模範回答を述べさせることができれば、あとは、その回答を暗記させるだけです。

 受験対策としては、ごくありふれたやり取りですが、これは、スパイにとっても重要とされています。むしろスパイは、こうした模擬面接を日常的に繰り返すことが任務を達成する上で重要とされます。

 なぜなら、スパイの任務とは、身分を偽装して敵対者と接触し、偽装を見抜かれないようにしつつ接触を繰り返し、人間関係を構築するために必要な嘘を重ねる必要があるためです。無数の嘘で塗り固められた思考と言動が常に不可欠であり、こうした無数の嘘をつくためには、事前に用意しておくしかないのです。場当たり的な嘘をつけば、いつかどこかで矛盾や不自然が生じてしまい、嘘が見破られて任務が失敗するからです。

Ⓒ『SPY×FAMILY』制作委員会・『SPY×FAMILY』第03話より引用

身分偽装して接触することで生じ得るやり取りを事前に想定する

 黄昏が模擬面接で、面接官からの質問と受験者の回答を事前に想定したように、スパイは、敵対者と接触した際に、どのようなやり取りが考えられるかを想定しておきます

 例えば、敵対者が道を歩いていた際、偶然を装って接触を試みようとします。この場合、どのような接触手順が考えられるでしょうか。

 挨拶をするならば、どのような挨拶をしますか。「こんにちは」、「こんばんは」、「おはようございます」などがありますが、これは、接触時刻によるでしょう。

 挨拶した後はどうしますか。挨拶するくらいなら、見知らぬ人にいきなり話しかけても問題ないでしょう。ただ、挨拶するだけでは、同じく挨拶を返されて、やり取りはそこで終了してしまいます。挨拶からどのように立ち話へと持ち込むかが重要になります。

 たとえ立ち話をできたとしても、その場限りの立ち話に終わらせてしまえば、そこで接触が終了してしまいます。引き続き面接できるような場所へ連れて行ったり、連絡先を交換して別の機会に改めて会うことを約束してもらわねばなりません。初回接触をいかに継続的な接触へつなげることができるかが不可欠です。

黄昏の事前想定が明らかになった対象者デズモンドとの初回接触

 アニメ第一期の最終話に当たる第25話で、黄昏は対象者デズモンドとの初回接触を果たします。同話では、黄昏がデズモンドとの初回接触時に想定しておいたやり取りが、実際に行われ、デズモンドとの質問と返答が一種の心理戦のように描かれます。

 これは、アーニャやヨルを交えた模擬面接と比較にならないほど、黄昏が初回接触に向けて、いかに事前想定を徹底してきたことが示されています。初回接触に至るまでのプロセスでは、二人の存在が不可欠ですが、実際に初回接触した場合、黄昏はデズモンドと一対一で対峙せねばなりません。つまり、初回接触の模擬面接は、黄昏が自分の脳内だけでひたすら突き詰めるほかありません。

 黄昏は、偽装ながらある種の「家族」を得たとしても、任務に立ち向かうに当たっては、どこまでも孤独にならざるを得ないのです。

 対象者との初回接触は、スパイとしてどれほど場数を積んだとしても、緊張を強いられるものです。想定外のやり取りが生じないよう事前想定を重ねますが、それでも思いもよらないやり取りに発展する可能性があります。そんな時は、その場限りの対応を瞬時に考えて、自然な素振りを維持しなければなりません。

 初回接触こそ、スパイの任務にとって最大の要所であり、スパイとしての力量が試される瞬間なのです。

以 上

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