スパイエンタメ解説・アニメ「SPY×FAMILY」(スパイファミリー)第03話001:スパイの単独行動による孤独と共同作業としての「家族」

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第03話001:スパイの単独行動による孤独と共同作業としての「家族」(SPY-EN010)

スパイにとって本番を想定した模擬訓練

 開始冒頭、黄昏は、ヨルの引越しを終えると、娘役アーニャを交えてイーデン校の入学試験に向けた模擬面接を行います。

 こうした実践を想定した模擬面接は、スパイにとって日常茶飯事の訓練です。新人時代からベテランになっても繰り返されるほど重要なものであり、この訓練なくして情報源を構築し、協力者を獲得することはできません。このため、一流のスパイである黄昏が、工作対象者デズモンドに接触するための条件を整えるにあたって、通らないわけにはいかないプロセスということです。

 仮に、黄昏はともかく、ヨルとアーニャがこうした模擬訓練を行わずに、本番を迎えたらどうなるでしょうか。一般的に、大学受験をはじめとするテストにおいては、模擬テストがつきものです。模擬テストなくして本番を迎えてしまえば、見たことのない問題が次々と出され、その場で対策を考えて実行しなければならなくなります。これでは、十分な対応を講じることが困難であり、結果もおぼつかないでしょう。

 黄昏が本番を確実に乗り切るために二人に模擬面接を行ったのは当然のことです。

Ⓒ『SPY×FAMILY』制作委員会・『SPY×FAMILY』第03話より引用

スパイにとって模擬訓練で想定されたもう一つの目的とは?

 スパイにとって、こうした模擬訓練は、本番を念頭に置いた事前対策である一方、別の目的もあります。それは、一度、本番を迎えたら誰からの助けも得られず、自らの独力に従って事態を乗り切るしかないという精神面の覚悟を鍛えるためです。

 スパイの任務はおおむね単独行動が基本であり、他のスパイと共同して仕事をする機会は限定的です。これは、情報源を構築するという作業が、相手と一対一人で付き合い、互いの間関係を深める、つまり仲良くなるほか手段がないためです。一対一の個人間で仲良くなる必要がある以上、複数のスパイで共同して、一人の工作対象者と接触を継続してしまうと、複数のスパイのいずれとどのような人間関係が形成されているかが不透明になります。工作対象者との関係性の程度が把握できなければ、どのような情報が入手できるかを想定することもできません。

 故に、スパイの仕事の性質上、対象者と対峙すれば、その際に起こり得ること全てに独力で対応するほかないのです。対応するためには、模擬訓練を通じて、あらゆるやり取りを想定しておくとともに、どのようなやり取りが生じても思考停止に陥らない精神的なタフさを身に付けなければなりません。

「スパイ歴十数年・・・数々のミッションをこなしてきたこの俺は、今初めてくじけかけている」「ダメだ。こんなんで面接が通るわけない」「模擬面接にはまだ早かったか」(『SPY×FAMILY』第03話より引用)

 黄昏は、自らが試験官役となり、ヨルとアーニャに対して、面接で想定される質問を投げかけますが、二人から要領の得ない返答が続くことで、内心で自信を失います。

 そもそも、何らかの場面で模擬訓練してまで本番に向けて万全に備えるというのは、一般的ではありません。ましてや、スパイのように、自らの仕事の一環として、用意周到な模擬訓練を行う必要性に迫られていることの方が稀でしょう。

 これは、新人スパイですらありふれた事例です。スパイと言っても、研修を終えたばかりの新人時代は、スパイとしての自覚と意識は一般人とほとんど変わりません。現場において、上司から模擬訓練を受けると言っても、その必要性や重要性を理解できていません。こうした状態では、訓練自体が単なる苦痛でしかなく、思うような効果は上がりません。

 しかし、新人スパイは、現場に出ていき、情報源となりそうな者を探して接触を繰り返す中で、思うように関係構築が進まないという悩みを抱えることになります。この段階に至って初めて、実践を想定した事前の想定問答を用意しておかねばならないと気付きます。  

黄昏は、こうした自身の経験を交えて、二人に模擬面接を受けさせるのは現時点で適切でないと判断したかもしれません。

Ⓒ『SPY×FAMILY』制作委員会・『SPY×FAMILY』第03話より引用

「いや、そもそも他人を当てにすることに無理があったのだ」「他人の、それも素人の価値判断などに成功の可否を委ねるべきではなかった」(『SPY×FAMILY』第03話より引用)

 黄昏は、模擬面接を断念するせざるを得ないことに、思わず嘆息します。そもそも、他人を当てにするというのは、スパイとして決して望ましい考え方と言えません。ましてや、諜報活動に全く縁の無い素人のアーニャとヨルを、イーデン校の入学試験に向けて必要とされる接触条件で、役立つと判断したことに後悔します。この「素人の価値判断」とは、模擬面接の重要性を理解できないことに由来するものでしょう。

 黄昏ばかりでなく、スパイの諜報活動は、単独行動が基本ですが、この場合の単独とは、任務全体を調整し、コントロールする意味です。任務が達成できるよう必要な情報収集し、計画を立てて、計画を実行し、時には計画を変更又は修正することに当たっては、どこまでも一人でこなさなければなりません。そもそも、諜報活動は秘匿化が鉄則であり、誰かに対して任務上の問題点や悩みを相談することなど許されません。もちろん、上司に相談することはあり得ますが、本国から遠く離れた任地で、通信手段を講じながら諜報活動状の秘匿事項をやりとりしなければならず、困難と制限がつきまといます。

 黄昏の場合、上司である「管理官」(ハンドラー)が、東国(オスタニア)に駐在する西国(ウェスタリア)の外交官に身分偽装しており、アジト(秘密拠点)で直接接触することは可能です。本作においては、黄昏とハンドラーがアジトで接触する場面が度々描かれます。しかし、互いに防衛措置(ぼうえいそち)、つまり接触前後の尾行を切って、接触場所を隠す必要があり、常に制限がつきまといます。故に、黄昏も気軽に上司に相談できる環境になく、諜報活動の計画については原則、独力で判断するほかないのです。

Ⓒ『SPY×FAMILY』制作委員会・『SPY×FAMILY』第03話より引用

スパイ活動は単独行動と集団作業の組み合わせが基本

 一方、スパイには、複数の情報源や協力者をコントロールして、そこから情報を吸い上げ、その情報を使って計画を進めるという集団作業の一面もあります。諜報活動の計画自体は、スパイ単独で取り扱うことが可能ですが、その計画を作り上げ、実行するに当たっては、単独で行うことができません。

 本作では、スパイの単独行動集団作業のいずれも描かれており、時に、黄昏自身のスパイとしての孤独や苦悩が描かれつつ、集団作業としての「家族像」も表現されています。黄昏が自らの孤独と家族との触れ合いの間で揺れ動く心理描写こそ、本作の魅力の一つと考えられます。

 黄昏のようなスーパースパイであっても、対象者デズモンドとの接触を自力で実現させることは不可能です。デズモンドは公の場に姿を現さず、接触機会がイーデン校における特待生向けの懇親会という極めて限定されていることが理由です。ここまで接触機会が制限されると、デズモンドと自然な形で出会い、その後も継続して接触を繰り返し、人間関係を構築するなど到底不可能です。

 このため、黄昏のこうした事情を一切感知しない娘役アーニャと妻役ヨルを、自らの任務に引き込んだわけです。当然のごとく、二人は、黄昏のやることなすことの本当の理由を知る由もなく、黄昏は、二人に真意を伝えられないまま、偽装家族をコントロールして集団行動を形成するしかなくなります。この点に、スパイによる集団作業が、一般的な集団作業と異なる点が生じます。

スパイが直面する異質な集団作業

 一般的に、集団作業とは、複数の人間が共通の理念や目的などの下に集まり、何をすべきかを互いに情報共有し、互いに一致協力し合い、助け合いながら同じ方向に向けて進んでいくためです。しかし、これは、スパイが集団行動を形成するに当たって、一切許されていない性質ばかりです。

 例えば、スパイは、情報源や協力者とチームワークに近い連携を取りますが、その連携にあたっては、その理由や背景を彼らと共有することはしません。いかに情報源や協力者といえども、諜報活動の任務や全容を知らせることなどできず、これをしてしまえばただの情報漏洩でしかありません。つまり、スパイによる集団作業では、共通の理念や目的が共有されることがないままとなります。

 さらに、理念や目的が共有されないことで、集団作業に携わる情報源や協力者の間で情報共有する機会はありません。そもそも、集団作業といえども、関与する情報源や協力者は互いの存在を知りません。知っているのは、集団作業を統括するスパイのみであり、故に、互いに一致協力して、助け合うこともありません。つまり、スパイによる集団作業では、横のつながりや連帯が全くといってよいほどありません。

 鵜飼に例えると、スパイは鵜匠に当たり、情報源や協力者は鵜に当たると言えましょう。

何でも話せて分かり合う仲間に恵まれないスパイの孤独

 スパイが諜報活動上で形成する集団作業は、一見してチームワークが取れているように見えて、その実態は、集団作業の統括者であるスパイと、個々の情報源や協力者との一対一の関係が複数寄せ集められたものに過ぎません。つまり、スパイは、情報源や協力者に対して、明かすことのできない秘密を抱えながら、その秘密に基づいて一方的に指示を出し、提供された情報や協力に応じて対価を支払うという無味乾燥な人間関係でしか有していません。自らの困り事や悩み事を全て明かして、相談したり、助けてもらうことなどできず、どこまでも、明かせない秘密を抱えながら、一定の距離を取らざるを得ません。これでは、何でも話せて分かり合う仲間など到底恵まれません。

 スパイは、こうして多種多様な人間関係に囲まれながらも、孤独感を感じることになります。たとえ、配偶者や家族がいたとしても、自らの仕事について明かすことができません。本作においても、黄昏は、娘役アーニャや妻役ヨルに対して自らの任務を一切明らかにしていませんが、これは、二人が偽装家族であることが理由ではなく、たとえ本当の家族であってもやはり明らかにできないのです。

自らの身分や事情を明かして協力を要請することも可能

 仮に、黄昏が、スパイという自らの身分を明示するとともに、「ストリクス」作戦という事情をアーニャとヨルに打ち明けて、スパイとしての任務に正面から協力を要請するとしたらどうでしょうか。

 スパイと言っても、必ずしも自らの身分や事情を全ての情報源や協力者に秘密にするとは限りません。例えば、タバコ屋に偽装する情報屋フランキーは、黄昏の身分を知っており、「ストリクス」作戦についてもデズモンドを対象者とすることくらいは把握しているようです。故に、黄昏から情報提供を依頼された際も、理由を尋ねることなくスムーズに応じて、的確な情報を取捨選択して提供しています。

 やはり、情報源や協力者にとっては、スパイの身分や事情をある程度知らされている方が、付き合いやすいわけです。ただ、すべての情報源や協力者がフランキーのように、スパイの身分や事情を知らされているとは限りません。そもそも、秘密厳守を鉄則とするスパイが自らの身分や事情を伝えても問題ないと判断できるケースは限定的であり、スパイにとって高い信頼を置く情報源や協力者でなければなりません。

 その意味では、黄昏にとって、アーニャとヨルは自らの身分や事情を明かすほど、信用を置いていないとも言えます。

Ⓒ『SPY×FAMILY』制作委員会・『SPY×FAMILY』第01話より引用

身分を明かしてしまえばビジネスライクな家族像へ変質する

 それでは、仮にフランキーのように、黄昏がアーニャとヨルを信用して、自らの身分と事情を明らかにし、「ストリクス」作戦への協力を要請したらどうでしょうか

 本作においては、アーニャは読心術に長けており、すでに黄昏の身分も事情も知っていることから考えて、おそらく歓迎するでしょう。また、ヨルは、自らも「殺し屋」という裏稼業にあり、これを隠して一般人に偽装するために、黄昏とアーニャと共に家族を形作っています。故に、黄昏の身分と事情に理解を示す可能性は高いとみられます。

 つまり、黄昏は、身分と事情を明かした方が二人から協力を得られやすく、「ストリクス」作戦の進展に向けて一致協力しやすいと考えられます。イーデン校への受験については、アーニャの入学が亡き妻の遺志と説明してありますが、それよりも、世界平和を実現する「ストリクス」作戦のためとの趣旨を伝えた方が、模擬面接に対するヨルの姿勢も違っていたかもしれません

 アーニャの場合は、本作の要所において、自らのイーデン校への入学と学生生活が世界平和につながると意識する場面が描かれています。黄昏による身分明示の有無こそ、「ストリクス」作戦の成否を左右すると言って過言ではないでしょう。

 しかし、黄昏が身分明示することは、アーニャやヨルとの関係がビジネスライクなものへ変質することもまた意味します。なぜなら、スパイの任務は、情報源や協力者になりそうな者との間で、感情や情緒を交えて信頼関係を構築しつつ、最終的には、こうした信頼関係を、金銭のやり取りというビジネスライクな人間関係へ転換させることですから

以 上

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