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スパイエンタメ解説
元スパイがスパイを題材としたエンタメコンテンツを徹底解説
「元スパイ・クマさんの浅そうで実は奥深いスパイエンタメ」
- 2025年06月:「スパイファミリー」に見るスパイのリアリティー:元スパイが読み解く・誰も知らない『SPY×FAMILY』のリアリティーと本当の魅力
- 2025年06月:「別班」の「情報機関」としてのリアリティー:『VIVANT』で知られた「別班」の実在性と存続性の意義とは?
- スパイエンタメ解説・アニメ「SPY×FAMILY」(スパイファミリー)第03話002:あらゆる事前想定が必要とされるスパイの偽装工作
- スパイエンタメ解説・アニメ「SPY×FAMILY」(スパイファミリー)第03話001:スパイの単独行動による孤独と共同作業としての「家族」
- スパイエンタメ解説・アニメ「SPY×FAMILY」(スパイファミリー)第02話004:スパイの常軌を逸した嘘の技術が生じる理由
はじめに(Introduction)
当解説は、スパイ歴約20年の元スパイ・クマさんが企画・構成・制作全てを担当したスパイエンタメに関するコメント記事となります。
解説に当たっては、情報のプロとして培った経験とノウハウを示しつつ、「スパイフィクション」とも呼ばれるスパイエンタメに対して、分析を行います。分析に当たっては、作品中から読み取ることが可能な部分を抽出し、コメントを加えた上で評価を下します。
このため、スパイ退職者に課された情報保全規程に基づいて、これまで関与してきたスパイ活動や諜報機関内で知り得た非公開情報を加えて評価を下すことは、一切いたしません。
上記を了承された上で、以下を読まれますようよろしくお願いします。
近年話題のスパイエンタメ
近年、スパイ(SPY)を扱ったエンターテイメント・コンテンツ(スパイエンタメ)がにぎわいを見せています。その代表例としては、テレビアニメ「スパイファミリー」とテレビドラマ「VIVANT」でしょう。特に、「VIVANT」は、平和と思われる日本においても、秘密裏のスパイ活動が行われていたとして反響を呼んでいます。
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Just a moment...

日曜劇場『VIVANT』|TBSテレビ
TBSテレビ 日曜劇場『VIVANT』の公式サイトです。毎週日曜よる9時放送。堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、松坂桃李、役所広司ほか超豪華俳優陣が集結!大ヒット作を手掛けてきた福澤克雄監督が送るアドベンチャードラマ!
いつまでも創作され続けるスパイエンタメ
スパイエンタメの歴史は古く、その本格的な発祥は「007」や「ミッション・インポッシブル」等のスパイ映画にまで遡ります。これらは人気を博して、年月を重ねてもシリーズ化されており、「スパイ・フィクション」という一大ジャンルのスパイエンタメを打ち立てた先駆けと言って良いでしょう。
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No Time To Die JP | James Bond 007

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』2023.11.8[水]4KUHD,ブルーレイ&DVDリリース|NBCユニバーサル・エンターテイメント
トム・クルーズ 全世界待望のM:I最新作! すべてが今、繋がっていく。『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』2023.11.294KUHD,ブルーレイ&DVDリリース
スパイエンタメが描く特殊な世界観
スパイエンタメの中で描かれているのは、誰からもその存在を知られるよう社会の陰部で、非日常な生活を送るスパイたちであり、常識とかけ離れた世界観と非凡なキャラクター性は、一般常識の中で取り止めのない日常生活を送る人々にとって、驚愕と憧れを持って迎え入れられたのでしょう。特に、スパイの非日常性を顕著に示したのは、彼らが有する特殊スキルとそのスキルを用いた、時には非人道的と言える活動の数々でしょう。「007」シリーズでジェームズ・ボンドに与えられた「ライセンス」は、その最たるものといえます。何よりも、こうした非人道的な行為ですら、何らの保留もなく許容されてしまう描写は、常人の想像が及つかないものと言えるでしょう。
同時に、スパイエンタメの普及は、スパイと情報との関係に対しても虚構性を与えることになり、一般社会と情報との間を娯楽で結び付ける結果となりました。そして、スパイの世界は、ますます一般社会からかけ離れていき、その実態を偽装する上で一助になった反面、情報というスパイが扱う最大の武器もまた社会の片隅へと追いやられることになりました。
そもそもスパイとは?
そもそも「スパイ」とは何を指すのでしょうか?スパイとは、情報を取り扱うプロであり、このプロの間では「諜報員」などと呼ばれています。諜報員による組織を「諜報機関」、「情報機関」などと呼ばれており、情報機関こそが情報の世界における主体となっています。そして、「スパイ」という用語は、この情報機関側から見て、自分たちの利益に反する敵対者を指すものであり、実は、情報の世界では忌み嫌われている存在です。
情報の世界で忌み嫌われている「スパイ」が歴史的に市民権を得て、今もなお不正確な理解が広まったままとなっており、これは、スパイが取り扱うはずの情報についても不正確な理解にとどまることが垣間見られます。
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スパイ - Wikipedia
なお、当ブログにおいては、一般社会における事象を説明する場合、市民権を得ている「スパイ」という一般用語を用い、情報の世界における事象を説明する場合、「諜報員」などの専門用語を用います。
古今東西で世間を騒がすスパイニュース
スパイの存在と活動が、一般社会において明らかになることは稀ですが、歴史的に見れば、世界各地で記録が現存しており、日本においてもスパイ活動が密かに行われていました。「ゾルゲ事件」は典型例の一つで、第二次世界大戦中の旧ソ連が日本に送り込んだ諜報員の一人であり、その任務は日本の対ソ参戦の可能性を探ることとされています。その活動は、当時の日本政権中枢にまで及んでいたとされ、国家間のパワーバランスに影響を与えかねない深刻さを有していたと考えられています。
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ゾルゲ事件 - Wikipedia
また、スパイの存在と活動が内部暴露によって明らかにされたこともあり、有名な事例としては「スノーデン事件」が挙げられるでしょう。米国の国家安全保障局(NSA)勤務のスノーデンは、2013年になって突如、マスメディアに対し、NSAによる諜報活動の一部を暴露して話題になりました。彼は、米国の中央情報局(CIA)にも勤務経験があり、米国情報機関による情報収集活動の一端が公に知れ渡る契機を作ったことで、情報の世界では、深刻な事件でもありました。
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エドワード・スノーデン - Wikipedia
元スパイが見たスパイエンタメ
こうしてスパイの存在と活動が明らかになることがあっても、それは、一時的に世間の耳目を集めこそすれ、スパイに対する一般社会の認識に何らかの変更が生じることなく、スパイという概念は、専らスパイエンタメを通じて認識が維持形成されていきます。むしろ、スパイエンタメが制作されていき、その一部が好評を博すことで、スパイをめぐる理解は乖離する一方となりました。
もちろん、あくまでも娯楽ですので、スパイに対する理解の内容を問う必要などありません。ただ、情報のプロの考え方を用いますと、特定ジャンルに関する情報を、一つの情報源に依存して収集することは、時に重大なリスクのある情報の不正確さを招く可能性を否定できないとされます。
特に、インターネットの普及を通じて、ここ数十年で情報量が爆発的に増大する中で、一般社会において、情報の捉え方や扱い方が困難になる一方であり、同時に、「フェイク」を冠する偽情報が氾濫して、犯罪や詐欺に用いられるケースがすでに後を断ちません。こうした現象は今後、一層深刻化こそすれ、以前のような情報レベルの社会に戻らないでしょう。
これは、情報という人間世界で最もありふれた概念が歴史的に見て、普及と理解が著しく遅れを取ったまま、近代以降の高度情報化社会を迎えてしまったギャップによるものでしょう。人々が、こうして情報を取り扱うためのリテラシーを不足させたまま、今後更に進展が見込まれる情報社会で生きていくことは、過去に類を見ないリスクに直面するおそれがあります。
情報を扱うプロであるスパイについて、スパイエンタメのみならず、それ以外のコンテンツから情報収集することが可能となれば、情報リテラシーの向上へと辿り着く人々が現れると考えます。そうすればスパイエンタメは今後、情報リテラシーに向けたプロセスで、導線の一つとして機能することもあり得るでしょう。
スパイあるある
それでは、一般社会にとってのスパイ、つまり情報の世界における諜報員は、どのように活動しているのでしょう?諜報員に課される主な任務は、①情報保全、②身分偽装、そして③工作の3点です。
①情報保全とは、自組織内部で取り扱う一切の情報を外部に対して秘密にすることです。スパイエンタメにおいては、様々な暗号を用いて秘密通信する場面があるあるですが、これは、情報の世界において初期段階に達成すべき任務となっています。情報収集することがスパイの主要任務ですが、同時に収集した情報が外部に漏れては元も子もありません。
②身分偽装とは、自組織外部に対して諜報員としての身分を隠すことです。これも、スパイエンタメで、自らの名前や職業などを敢えて違えて自己紹介する場面があるあるですが、情報保全を遵守する上で、不可欠な任務です。情報を外部に漏らすまいと情報保全しても、そもそも諜報員の存在と活動が外部で可視化されてしまえば、それ自体がスパイの活動を示す情報として敵対組織から把握されるおそれがあります。
③工作とは、自組織外部に情報源を構築することです。情報保全と身分偽装によって、情報が漏れないよう措置を講じた上で、情報を提供してくれる情報源を作ることになります。情報保全と身分偽装が情報収集における防御に相当すれば、工作は、情報収集における攻撃に相当します。諜報員は、最初に防御を整えることで攻撃へと転じるわけです。そして、工作は、諜報員にとって最重要な任務であり、どの程度任務達成できるかによって、指揮監督する諜報機関から個々の諜報能力を評価される最大の契機になります。
以上3点が諜報員全てに共通する情報の世界の本質ですが、スパイエンタメの中には、この本質が窺われる部分が存在することも事実です。
スパイないない
スパイエンタメでは、情報の世界に生きる諜報員にあり得ない演出が含まれています。スパイないないの最たるものといえば、殺人、誘拐、破壊などの暴力活動でしょう。
テレビアニメ「スパイ教室」では、スパイ機関で養成された少女たちが諜報活動を展開しますが、時には市街地で、拳銃、刀剣、爆弾など用いて敵対者と戦闘を交わす場面があります。これは原則、諜報員としてあってはならない大立ち回りであり、自分たちの存在を周囲、特に敵対者に対して派手に喧伝したものでしょう。
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アクセスいただいたサイトはメンテナンス中です
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また、「007」のジェームズ・ボンドは、「ライセンス」、特殊機器、特殊車両を持っていますが、実際のところ、諜報員はこれらを所持してはなりません。一方、スパイ小説「ジョーカー・ゲーム」では、「死ぬな・殺すな・とらわれるな」が諜報教育としてで繰り返し叩き込まれますが、これは諜報員にとっての常識です。
(以下外部リンクとなります)
TVアニメ『ジョーカー・ゲーム』公式サイト
『ジョーカー・ゲーム』TVアニメ2016年4月放送開始
また、ジェームズ・ボンドは、人々の目を引くような洗練した容姿の持ち主であり、その活動に寄り添う「ボンド・ガール」もまた同様です。ただ、情報保全する上で、人々の目を引き寄せることは明らかに不利であり、身分偽装する上でも、身分を見破られるおそれを高めるばかりです。むしろ、諜報員に求められるのは、どこにでもいる没個性な容姿と能力であり、「世に身をやつす」ために有利でなければなりません。
例えば、ジェームズ・ボンドが所属すると設定された諜報機関では、2005年に初めて諜報員が公募されましたが、その採用条件の一つに身長が男性は180センチ以下、女性は173センチ以下とありました。これは、これ以上高身長になると、群衆の中で目立つことに起因すると考えられます。
(以下外部リンクとなります)
英諜報機関SIS、ウェブサイトで人材募集 | WIRED.jp
映画『007』シリーズの架空の主人公「ジェームズ・ボンド」が所属する諜報機関として有名なイ
さらに、ジェームズ・ボンドによる敵対組織への潜入場面が度々ありますが、これは諜報員に直接的に重大なリスクが及ぶため、実際のところ特殊ケースを除いてあり得ません。そもそも、諜報員自身が潜入する必要はなく、むしろその必要性を無くすために敵対組織の内部に情報源を作るわけです。仮に、諜報員自身が身分偽装して潜入した場合、見破られればそのまま拘束され、所有する諜報組織の内部情報が敵対組織に筒抜けになるおそれがあります。拘束されたのが諜報員自身ではなく、諜報員が構築した情報源の一つであれば、その所持情報は限定的となり、情報漏洩のおそれが少なく済みます。
妄想を掻き立てるスパイエンタメ
スパイエンタメには、スパイの実態に近い部分とかけ離れた部分が混在して描かれており、娯楽という意味ではこれで問題ありません。情報に乏しい社会環境が今も続いていれば、人々にとって、こうした娯楽に興じるばかりで、娯楽から情報リテラシーという教育要素を見出す必要性はありません。
しかし、現在のような高度な情報社会が到来したにも拘らず、従来通りのスパイエンタメが依然として隆盛するあたり、リテラシーの現状を評価するレベルを端的に示していると言えるでしょう。社会の情報リテラシーは、近代以前のレベルにとどまっているかもしれません。故に、現代社会が情報の濁流に流されている様相が窺われます。
当ブログでは、スパイエンタメを通じて具体例を示しつつ、スパイつまり諜報員の物の見方考え方を提示することで、社会全体の情報リテラシーの向上につながるよう説明していきます。
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