第02話001:身分偽装は諜報活動への第一歩(SPY-EN006)
- 諜報活動の大前提となる身分偽装
- 身分偽装に向けた情報収集を行う基礎調査
- 基礎調査に欠かせない協力者の存在
- 偽装身分の関係者に対する身辺調査
- 身辺調査で把握すべきは敵対組織の関与有無と特定の思想信条への偏り
- 「先ずは小さな要求を飲ませる。最終的に正式な婚姻を承諾させてやる」(『SPY×FAMILY』第02話より引用)
- 初期の協力依頼は内容を他愛のないレベルにとどめる
- 徐々に協力依頼の内容を上げていく
- 協力依頼の内容が偽装工作上で十分なレベルに到達させる
- 協力依頼に対する対価を提供する
- 「しかもお前、色々な代金を踏み倒して・・・」(『SPY×FAMILY』第02話より引用)
- 身分偽装における協力者網の構築と活用は諜報活動の基本
諜報活動の大前提となる身分偽装
黄昏は、「ストリクス」作戦における工作対象者デズモンドと接触するため、接触条件として設定したイーデン校の懇親会会場への潜入を引き続き試みます。潜入に必要な条件として、娘の存在が必要なため、孤児院からアーニャを引き取りましたが、そのイーデン校の入学受験に当たっては、父母同伴という条件が課せられていたことが判明します。
一般的に諜報活動における協力者獲得工作は、①工作対象者と接触し、②人間関係を構築しつつ、③必要な情報を入手するという三段階から構成されます。人間関係が深化すればするほど、より高度な情報の入手が期待され、必要かつ高度な情報が金銭的な対価と見返りに継続的に入手可能と判断された時点で、工作対象者から協力者へ格上げされて、任務完了となります。
「ストリクス」作戦は、第一段階であるデズモンドとの接触に向け、条件を整えるという準備段階にあり、接触条件に沿った身分偽装が目下の課題です。工作は始まったばかりの段階ともいえ、黄昏の任務達成はまだまだ先というところです。
しかし、身分偽装は、工作の最初から最後まで注意を払うべき重要な要素です。黄昏は、イーデン校の入学受験で娘役と妻役を必要としていますが、これは入学後も、デズモンドと接触して関係を構築するプロセスで重要な身分設定です。工作に適した娘と妻を用意することは、作戦の成否を左右するため、黄昏は開始早々、重大な局面を迎えています。
身分偽装に向けた情報収集を行う基礎調査
身分偽装は、作戦の成否を左右するため、偽装工作に当たっては、偽装身分に関わる情報を網羅的に収集しておく必要があります。こうして準備段階で必要情報を収集することは基礎調査と呼ばれ、これもスパイの任務の一つです。
諜報機関の組織力が及ぶ国内であれば、基礎調査を行うスパイと、基礎調査の結果を得て工作に当たるスパイとの間で役割分担が可能ですが、組織力が十分に及ばない国外ともなれば、スパイは、基礎調査と工作の双方を掛け持ちせざるを得なくなります。
「ストリクス」作戦においては、作戦指示の段階で、接触場所(イーデン校懇親会)や接触身分(娘の父親)など接触条件が与えられており、黄昏は、これら接触条件を充足させる身分偽装を済ませることで、工作に着手できるはずでした。しかし、イーデン校における入学試験に父母同伴が求められることまでは指示されておらず、これは受験パンフレットを確認すれば把握可能と考えられるため、基礎調査が不十分であったと言わざるを得ません。
黄昏は、妻役を確保するため、改めて基礎調査を行う必要に迫られました。

基礎調査に欠かせない協力者の存在
身分偽装に向けた基礎調査においては、偽装身分が実在すると対外的に証明可能な関係者が必要であり、黄昏の場合は娘役と妻役となります。娘役としてアーニャを選定した際、その経歴を洗うに当たって、タバコ屋に偽装した情報屋フランキーに身辺調査を依頼しています。妻役の選定が必要になった場合も、候補となる女性の個人情報を集めるため、同じく身辺調査を依頼しています。
その際、フランキーは、役所から独身女性のリストのコピーを入手しており、これは当然ながら、一般的な入手ルートではありません。役所に何らかの根回しをする必要があり、フランキーには、非公式なルートがあるということです。
役所に限らず、民間企業や団体などであらゆるルートを使って個人情報を収集することは、スパイにとって珍しくありません。スパイは、こうしたルートを常日頃から構築する任務も帯びており、例えば、通信会社の社員と個人的に付き合うことで、携帯電話の番号から個人情報を入手しようと試みます。少なくとも住所、氏名及び生年月日の3点を把握できれば、個人の特定が可能となり、個人を特定できれば、戸籍、住民票、銀行口座など更なる個人情報を入手できるようになります。
Ⓒ『SPY×FAMILY』制作委員会・『SPY×FAMILY』第02話より引用
偽装身分の関係者に対する身辺調査
こうした個人情報は、スパイの身分偽装にとって不可欠です。偽装身分を設定し、これを対外的に証明する関係者を用意するに当たっては、その関係者に関する個人情報が必要です。
フランキーは、役所からコピーした独身女性のリストのコピーを黄昏に提供した際、利害が一致する「ワケアリ」さんを探すよう勧めますが、こうした「ワケアリ」の有無及び内容を把握することこそ、関係者に対する身辺調査で重要です。「ワケアリ」を把握することで、協力を了承させるための条件を提示することができますし、事実上、弱みを握ることで協力を断れないように仕向けることも可能です。
さらに、フランキーは、「ワケアリ」が無ければ捏造してもよい旨発言していますが、「ストリクス」作戦の重要性を鑑みれば、事実関係の捏造も選択肢の一つということでしょう。ただ、黄昏は、捏造にまつわるリスクを避けると判断しました。
Ⓒ『SPY×FAMILY』制作委員会・『SPY×FAMILY』第02話より引用
身辺調査で把握すべきは敵対組織の関与有無と特定の思想信条への偏り
身辺調査は、偽装身分の関係者の「ワケアリ」を把握することだけが目的ではありません。それよりも、関係者の周辺や背後に、任務達成を阻害しかねない要素が存在しないか確認することも目的の一つです。
危険視される要素の典型例としては、関係者本人が特定の思想信条を有しているか、関係者の家族や知人に敵対組織の関係者が含まれているかを確認することです。
例えば、黄昏は、仕立て屋に出向いた際、その女主人について、リストに名前があったものの、過去に政治運動で逮捕歴があるとして、偽装身分の関係者にすることに危険があると判断しています。政治運動に参加するということは、特定の思想信条を有している可能性があり、こうした人物は、スパイにとって、協力を断られるばかりか、スパイ自身に疑惑の目を向けてくる事態を想定せざるを得ません。特定の思想信条は、特定の団体との繋がりを生みやすく、敵対組織と関係しているおそれもあります。
こうした中、黄昏は、のちに妻役となるヨルと偶然接触します。ヨルもまた、リストに名前がありましたが、この時点では、歳の離れた弟1人がおり、二人とも公務員で怪しい経歴はなく、身辺上は問題ないように見えました。
Ⓒ『SPY×FAMILY』制作委員会・『SPY×FAMILY』第02話より引用
「先ずは小さな要求を飲ませる。最終的に正式な婚姻を承諾させてやる」(『SPY×FAMILY』第02話より引用)
黄昏は、ヨルの経歴に問題ないと判断し、事前に用意したストーリーを説明した上で、協力依頼します。その際、「先ずは小さな要求を飲ませる。最終的に正式な婚姻を承諾させてやる」と心中で考えますが、これは、スパイの協力者獲得工作において、基本中の基本というべき古典的なノウハウの一つです。
人間は当然ながら、心理的な負担の重い事柄からは距離を置きたがります。例えば、知り合ったばかりの人から「世界を救うために協力してほしい」などと言われたら、協力を即答することはあり得ないでしょう。いかに公に役立つ正義であったとしても、そもそも公や社会や世界といった大きなスケールに積極的に関与したいと思う人はごく少数です。大抵の場合、自分の手に収まる程度の日常を生きるのが精一杯であって、そんなところに、公や社会や世界などと突然言われたら思考が停止します。このため、日常に収まる範囲内のストーリー設定が必要となります。
例えば、重い荷物を持ってほしい、転んだので手を貸してほしいなどと、困っているから助けてほしい程度の依頼であれば、心理的負担は少なく、人助けをして感謝されることの喜びという人間の無意識に問いかけることができます。
Ⓒ『SPY×FAMILY』制作委員会・『SPY×FAMILY』第02話より引用
初期の協力依頼は内容を他愛のないレベルにとどめる
スパイは、こうした心理的負担の少なさが持つ利点を意識しています。情報源を構築するに当たっては最終的に、情報提供に対する協力を承諾させ、対価を提供する必要があります。つまり、協力依頼への承諾と対価という関係性まで発展させることができるかであり、スパイは、あらゆる場面で依頼を承諾してもらい、対価を受け取ってもらうための方策を考えています。
関係性が存在しない、または不十分な段階では先ず、喫茶店で話をすることが主な依頼内容となります。これはスパイにとって、初期段階で不可欠というべき依頼の切り口であり、この切り口を達成できなければ、情報源としての関係構築はいつまでも不可能と言って過言ではありません。
そして、喫茶店で話をするという初期段階では、何らかの協力依頼など一切行わず、喫茶代を支払ってお茶を奢るくらいで十分です。なぜなら、喫茶店で話をしてくれたことで依頼に対する承諾を得られ、承諾に対する対価としてお茶を奢ったという図式が成立するためです。数千円程度ならともかく、500円程度のお茶を奢られたくらいで心理的に過度な負担を感じる人はいません。それでも、承諾に対する対価を得たということになり、スパイが想定する依頼に対する承諾と対価の受領という図式が実現します。
スパイと情報源とのあらゆる協力関係は、こうした些細な図式から始まるのです。黄昏もこうした図式を知り尽くしているのでしょう。

徐々に協力依頼の内容を上げていく
黄昏は、ヨルに「小さな要求」を承諾させるため、娘役のアーニャによるイーデン校への入学という夢を語り、母役としての協力を依頼しました。初回接触という関係性が存在しない段階で、ここまで具体的な協力依頼は、スパイの一般的な接触手順に照らして性急過ぎると考えられますが、漫画のストーリーの構成上、ヨルと喫茶店に行って話をするという場面を描けば冗長過ぎることから、カットされたとみられます。
いずれにしても、黄昏は、些細な依頼を行なって承諾させるという図式を忠実に実践し、ヨルに父母同伴を了承してもらいます。引き換えにヨルの悩み事を黄昏が手助けすることになりましたが、この結果、ヨルが黄昏の依頼を承諾した動機が明確になっており、相互に利点があることで二人の関係構築を後押ししています。

これまで何の面識と無い人と初めて会って、最終的には、互いに必要とする深い関係にまで進展させるのが、スパイの役割の一つだよ。いわば「意図的に親友を作る」ということだね。

親友を意図的に・・・?親友って、意図して作ることができるのですか?
協力依頼の内容が偽装工作上で十分なレベルに到達させる
黄昏は、突発的な別任務に一悶着しながらも、ヨルの悩み事を手助けすることで約束を果たしました。こうして約束を果たすことは、互いの信頼を得る上で重要であり、何よりも双方の関係性を進展させる貴重な機会となります。
二人は共に帰途につきますが直後、黄昏の別任務の残党から襲撃を受けて再び危機に陥ります。黄昏は、暴漢に襲われながらもヨルを守りつつ、次々と制圧していきますが、予想外の反撃を喰らってかわしきれなくなります。その時、ヨルの「護身術」によって助けられ、黄昏は、難を逃れます。こうして互いの危機を互いに助け合うことは、人間関係を深化させる上で有用な要素であり、意外なことにヨルから「結婚」の提案があります。その理由を「お互いの利益のために」とするヨルに対し、黄昏は、暴漢に投げつけた手榴弾の安全ピンを婚約指輪に見立てて、ヨルの左手薬指にはめてみせることで、承諾の意思を示します。
人間関係が深化したところで、ヨルから「お互いの利益のために」(『SPY×FAMILY』第02話より引用)とあった時点で、黄昏との偽装結婚が、ヨルにとっても利益があることが判明します。これは、スパイから見れば、①一定レベルの人間関係を構築した上で、②協力してもらうことへの対価を協力者に与えたことになり、この2点を以て、ヨルは偽装身分に対する協力者となったと判断できます。

協力依頼に対する対価を提供する
スパイは、任務遂行に必要な協力者を設置することが日常的な仕事です。協力者として認めるためには、人間関係を構築することに加えて、何かしらの対価を提供して、受領してもらうことが必要です。どれほど人間関係が深化したとしても、協力に対する対価を提供し、受領してもらえなければ、協力者とは言えません。
これは、協力に対して相応の対価を提供しなければ、協力をしてもらうばかりになってしまい、スパイと協力者の関係としては一方的で望ましくないのです。こうした一方的な協力関係は、協力者に負担がかかるばかりで長続きする見通しが立ちません。また、一方的に協力してくれるというのは、ギブアンドテイクの関係性が成立しておらず、そもそも不自然です。スパイから見れば、特段の利益もないまま協力してくれる理由が見当たらず、敵対組織からの回し者ではないかとの疑念すら生じます。
逆に、協力者に対価を提供し、受領してもらえれば、ギブアンドテイクの関係性が成立し、スパイから見れば、対価が欲しいために協力してくれるとの見方ができますので、疑念が生じる余地がありません。
黄昏に「求婚」したヨルの口から「お互いの利益のために」とありましたが、これは、黄昏との偽装結婚がヨルにとっても有益であることを明らかにしたため、黄昏は、スパイとしてヨルと関係を持つことを決断できたわけです。

「しかもお前、色々な代金を踏み倒して・・・」(『SPY×FAMILY』第02話より引用)
一方、黄昏は、情報屋のフランキーに対して、協力の対価を十分に与えていないことも明らかになりました。協力者である情報屋に対しては、協力への対価が必要であることは、スパイにとって常識ですが、黄昏が対価を十分に支払っていない理由については明らかにされません。
ただ、スパイ一般に、対価の支払いは協力を得た後とされています。つまり、協力者から十分な協力を得ることが先であり、その後にスパイから対価が支払われます。逆に、協力が先になされなければ、対価の支払いはあり得ません。これは、スパイが協力者に対して優位に立ち、自らが必要とする協力を先にさせることで、スパイの立ち位置が協力者に優先することを示すためでもあります。とはいえ、協力してもらいながらも、対価を十分に支払わなければ、協力者は次第に消極的になり、スパイと協力者の関係性が崩れることもあり得るため、協力者運営(ハンドリング)は、スパイにとって注意を要します。
身分偽装における協力者網の構築と活用は諜報活動の基本
スパイは、任務を遂行する上で多様かつ多くの協力者を必要とします。「ストリクス」作戦の最終目標は、デズモンドに協力者獲得工作を仕掛けて情報源とし、必要な情報を引き出すことですが、その工作に着手する前に用意周到な準備が求められます。この準備に当たっては、基礎調査を下支えする情報屋フランキーであったり、偽装身分を対外的に証明する妻役ヨルから、協力を得ています。
スパイは単独行動が基本であり、自分以外の誰も信用しない「一匹狼」に近い実態があります。しかし、任務を実施するために数多くの協力者を用意しなければならず、実は、様々なスキルや立場にある者たちを集めて雇用するという集団のリーダーという一面も存在します。
故に、スパイにとっては、任務達成に向けた協力者網の構築及び運営もまた、協力者獲得工作に匹敵するほど優先度が高く、運営と工作は、スパイ活動の両輪という事実が本作においても示唆されています。

スパイにとって最も大切なのは「人脈」であり、スパイは多種多様な人脈を構築しつつ、この人脈を活用して、敵対組織の内部に協力者を構築するんだよ。いかなる任務を実施しようとも、人脈の形成と活用は常に怠らないようにね。

要するに、知り合いがあちこちに沢山いるということですか。スパイって、誰とでも仲良くできないと務まらない仕事なんですね。
以 上







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